SOL-299792458のブログ

知財業務に従事する一個人が日々の雑感を不定期で掲載するサイトです。

2012.2.6-「高強度部品の製造方法と高強度部品」事件(従属項の特徴事項のみを抜き出して把握した引用発明の認定を否定した事例)

「高強度部品の製造方法と高強度部品」事件

平成24年2月6日判決言渡
平成23年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年1月23日
不服2009-14453号事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/973/081973_hanrei.pdf

 


■概要
- 従属項の特徴事項のみに着目した引用発明の認定を否定した事例。

■ポイント
- 特許庁の主張(要約):従属項の特徴事項に着目して引用発明を認定したことについて、以下のように主張。
「引用発明は、刊行物に具体的に開示された実施態様に限定して認定しなければならないというものではなく、ある技術課題に直面した当業者が、刊行物に接したときに、まとまりのある技術思想として、そこにどのような発明が記載されていると認識するかという観点から認定すれば足りる。すなわち、特許出願に係る発明について進歩性の特許要件を判断するに当たり、引用発明は、特許出願に係る発明との対比に必要な範囲で、その特徴的な要素を抽出して把握することが出来る。」

- 裁判所の判断(要約):引用発明の解決課題から請求項1の内容を中心的な技術思想として認定し、これを全部包含する従属項の発明においては従属先の技術事項と「密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべき」であるから、従属先の技術事項を切り離して、従属項の特徴事項のみを抜き出して引用発明の技術的思想を認定することは許されない。

特許庁の主張(抜粋)
1 取消事由1に対し
(1) 引用発明は,「加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れ」して高強度にする(段落【0002】)という技術を前提としてこれに改良を加えたものであるから,引用発明の方法によって得られる最終成形品(本願発明の「部品」に相当)においても高強度は維持されている。刊行物1には,「…鋼板Wは成形型5に挟まれることで成形型5に熱が奪われて急冷され焼入れされることとなり,成形品1の母材強度を大幅に向上させることができる。…」(段落【0020】)との記載がみられ,かつ,引用発明は,車体等の高強度化を前提として改良されたものである以上(段落【0002】),プレス成形品が高強度でないとするのはむしろ不合理である。
(2) 引用発明は,刊行物に具体的に開示された実施態様に限定して認定しなければならないというものではなく,ある技術課題に直面した当業者が,刊行物に接したときに,まとまりのある技術的思想として,そこにどのような発明が記載されていると認識するかという観点から認定すれば足りる。すなわち,特許出願に係る発明について進歩性の特許要件を判断するに当たり,引用発明は,特許出願に係る発明との対比に必要な範囲で,その特徴的な要素を抽出して把握することができる。
 審決は,引用発明を認定するにあたり,特許請求の範囲の【請求項1】に記載されている「加熱された鋼板を成形型によりプレス成形と同時に冷却して焼入れされた成形品を得るプレス部品の焼入れ方法」について,本願発明との対比に必要な範囲で,特徴的な要素として,Cの質量%(段落【0017】),鋼板加熱温度(段落【0020】),プレス成形開始温度(段落【0020】),金型中での焼入れ(段落【0020】),剪断加工(【図17】)を抽出して把握したものである。したがって,審決の引用発明の認定に誤りはない。

■裁判所の判断(抜粋)
3 取消事由1,2,4(引用発明の認定の当否,一致点の認定の当否,相違点の看過の有無,看過された相違点が想到容易といえるか)について
 取消事由2,4は,取消事由1を前提とするものであって,これらの取消事由は相互に関連することから,まとめて検討することとする。
(1) 上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れし,その後に加工するという従来技術においては,焼入れにより硬度が上昇してその後の加工が困難になるなどといった問題点があったことから,これを解消するために,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させる,すなわち,加工が必要な部位の焼入れ硬度を低下させ,その部位の加工を容易にすること(【請求項1】,第1実施形態に係る発明)を中心的な技術的思想とするものである。そして,プレス成形に引き続き成形品が冷却され硬化する前に成形型内で加工を行うという構成(【請求項9】,第4実施形態に係る発明)についても,【請求項9】が【請求項1】を全部引用していることに加え,「第9の発明では,第1の発明の効果に加えて…」(段落【0012】),「本実施の形態(判決注:第4実施形態)においては,第1実施形態における効果…に加えて,下記に記載した効果を奏することができる。」(段落【0076】)などの記載があることに照らすと,成形型内で加工を行うに当たっても,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工することが前提となっているものと認められる。このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。
 しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。
 したがって,上記の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。
(3) なお,原告は,取消事由1(1)として,審決が引用発明について「高強度」プレス成形品であると認定したことは誤りであると主張する。
 しかしながら,本願発明にいう「高強度」の部品は,焼入れにより強度を向上させた部品であると認められるところ,引用発明も,焼入れにより強度を向上させる従来技術を前提として,加工を行う部位についてのみ焼入れ硬度を低下させるのであるから,全体としての成形品は「高強度」であると認められる。

第6 結論
 以上のとおりで,取消事由3について判断するまでもなく,刊行物1を主たる引用例として本願発明の容易推考性を肯定した審決は誤りであって,取り消されるべきものである。よって,主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 塩月秀平
 

f:id:SOL299792458:20170730132614j:plain