SOL-299792458のブログ

知財業務に従事する一個人が日々の雑感を不定期で掲載するサイトです。

2012.11.29-「表示スクリーンをもつ電子装置」事件(引用文献の「背景技術」欄の記載に基づき阻害要因を認めた事例)

「表示スクリーンをもつ電子装置」事件

平成24年11月29日判決言渡
平成23年(行ケ)第10425号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年9月11日
---
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/790/082790_hanrei.pdf
---

 

 

★引用文献の「背景技術」欄の記載に基づき阻害要因を認めた事例。


◆原告:引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものである(甲1の【0009】~【0011】参照)。他方,本件審決が認定した周知技術は,「仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転」とあることから明らかなとおり,2次元的な表現を前提としたものである 。したがって,仮に上記技術が周知であったとしても,引用発明が否定した2次元的な表現に係る周知技術を引用発明に適用することは,当業者にとって容易でも設計的事項でもない。

 

◆庁:引用発明において,図形は,本願補正発明の電子装置のスクリーンに相当する画像表示装置の画面に表示されるものであり,平面であるスクリーンには必要に応じて様々な表示形態で表示がなされることはいうまでもない。また,周知技術は,引用発明と共通の技術的意義を有するものであり,両者は,表示対象として仮想した図形の配置が2次元のものであるか3次元のものであるかの差にすぎない。そして,引用発明においても,表示は結局のところ2次元平面にされることになるのであるから,表示対象として仮想した3次元のものを2次元のものに変更することに何らの阻害要因もないことは明らかである。

 

◆裁判所:そして,仮に,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」との先行技術が存在するとしても(ただし,本件においては認定できない。),引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものであるから,引用発明に上記先行技術を適用する動機づけはなく,引用刊行物の「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」との記載は,引用発明に「2次元的なユーザインタフェース」に係る上記先行技術を適用するに当たって,阻害要因になるものと認められる。

-----

平成24年11月29日判決言渡
平成23年(行ケ)第10425号 審決取消請求事件 口頭弁論終結平成24年9月11日
判決
原 告 アップル インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 大 塚 康 徳 同 大塚康弘 同 坂田恭弘 同 高柳司郎 同 江嶋清仁 同下山治 同 永川行光
被 告 特許庁長官
指定代理人 大野克人 同近藤聡 同 樋口信宏 同 甲斐哲雄 同 芦葉松美
主文
1 特許庁が不服2009-24610号事件について平成23年8月10
日にした審決を取り消す。
1

2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由
第1 請求 主文同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 発明の名称を「表示スクリーンをもつ電子装置」とする発明について,平成11
年3月19日(パリ条約優先権主張:1998年(平成10年)3月20日フラン ス共和国)を出願日とする特許出願(以下「本件出願」という。)がされ,本件出願 について,平成21年8月3日付けで拒絶査定がされた。これに対し,同年12月 11日,上記査定に対し拒絶査定不服審判(不服2009-24610号事件)が 請求され,同日付けで手続補正書が提出された。
特許庁は,平成23年8月10日,「平成21年12月11日付け手続補正(以下 「本件補正」という。)を却下する。」との決定(以下「本件決定」という。)をした 上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を し,その謄本は同月22日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。 「複数の図形のうち一部の図形のみを同時に,知覚可能なように表示することがで き,前記複数の図形を入れ替えて表示しなければならないスクリーンと;
前記複数の図形を前記スクリーン上で移動させるための移動手段とを具え,
前記移動手段は,前記複数の図形を前記スクリーン上に表示すべく回転移動させ る手段によって構成され,
前記複数の図形は仮想的な環内に配置され,前記移動手段は,前記仮想的な環を, 前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され,前記仮想的な環の回転 軸は前記スクリーン外にあり,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれ,
2

これにより,前記スクリーンは,前記複数の図形のうち前記一部の図形のみを同時 に,知覚可能なように表示することを特徴とする電子装置。」(以下「本願補正発明」 といい,本件補正後の明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。)
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。 「複数の図形を表示しなければならないスクリーンと;
前記複数の図形を移動させるための移動手段とを具え,
前記移動手段は,前記複数の図形を可視化すべく回転させる手段によって構成さ れ,
前記複数の図形は仮想的な環内に配置され,前記仮想的な環の回転軸は前記スク リーン外にあり,これにより,前記スクリーンは前記複数の図形の一部のみを表示 することを特徴とする電子装置。」(以下「本願発明」という。)
3 審決の理由
本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりで ある。
(1) 本件補正について
ア 本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な 事項について,「複数の図形を表示しなければならないスクリーン」を,「複数の図 形のうち一部の図形のみを同時に,知覚可能なように表示することができ,前記複 数の図形を入れ替えて表示しなければならないスクリーン」と限定し,「前記複数の 図形を移動させるための移動手段」を,「前記複数の図形を前記スクリーン上で移動 させるための移動手段」と限定し,「可視化すべく回転させる手段」とあるのを,「前 記スクリーン上に表示すべく回転移動させる手段」と限定し,「移動手段」について 更に「前記移動手段は,前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転さ せるように構成され」と限定し,「仮想的な環」について,「前記仮想的な環の一部 は前記スクリーン内に含まれ」と限定し,「前記スクリーンは前記複数の図形の一部 のみを表示する」とあるのを,「前記スクリーンは,前記複数の図形のうち前記一部
3

の図形のみを同時に,知覚可能なように表示する」と限定するものであって,平成 18年法律第55号附則3条1項(以下「改正附則3条1項」という。)によりなお 従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許 法」という。)17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該 当する。
イ 本願補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-97 154号公報(以下「引用刊行物」という。甲1)に記載された発明(以下「引用 発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたも のであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受ける ことができないものであり,本件補正は,改正附則3条1項によりなお従前の例に よるとされる平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法12 6条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同 法53条1項の規定により却下すべきものである。
(2) 本願発明の容易想到性について
上記のとおり本件補正は却下されるべきところ,本件補正前の特許請求の範囲の 請求項1に係る発明(本願発明)は,本願発明の構成要件を全て含み更に限定を付 した本願補正発明が,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をする ことができたものであるから,本願発明も,同様の理由により当業者が容易に発明 をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けるこ とができない。
(3) 本件審決が,上記判断を導く過程において認定した引用発明,本願補正発明 と引用発明との一致点及び相違点,周知技術は,次のとおりである。
ア 引用発明 「文字,図形等により構成された複数のメニューアイテムを円筒形に配置し,画像 表示装置の画面には該円筒の中心から外周側を眺めるように複数のメニューアイテ ムの内の一定数のメニューアイテムが表示され,ボタンを操作して円筒を左又は右
4

方向に回転させることにより画面上に順々にメニューアイテムが表示される,画像 制御装置。」
イ 本願補正発明と引用発明との一致点 「複数の図形のうち一部の図形のみを同時に,知覚可能なように表示することがで き,前記複数の図形を入れ替えて表示しなければならないスクリーンと;
前記複数の図形を前記スクリーン上で移動させるための移動手段とを具え,
前記移動手段は,前記複数の図形を前記スクリーン上に表示すべく回転移動させ る手段によって構成され,
前記複数の図形は仮想的な環内に配置され,前記移動手段は,前記仮想的な環 を,回転させるように構成され,前記仮想的な環の回転軸は前記スクリーン外にあ り,これにより,前記スクリーンは,前記複数の図形のうち前記一部の図形のみを 同時に,知覚可能なように表示することを特徴とする電子装置。」
ウ 本願補正発明と引用発明との相違点 「本願補正発明は,仮想的な環を前記スクリーンを含む平面内で回転させるように 構成され,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれているのに対して, 引用発明は,仮想的な環を前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成さ れているものではなく,また,仮想的な環の一部の図形はスクリーンに表示される が,仮想的な環の一部がスクリーン内に含まれているものではない点。」
エ 周知技術 「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスク リーンを含む平面内で回転させるように表示すること」
第3 当事者の主張
1 取消事由に関する原告の主張
本件審決は,本願補正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),周 知技術の認定を誤り(取消事由2),本願補正発明と引用発明との相違点についての 判断を誤り(取消事由3),本件補正を誤って却下した結果,本願発明についての判
5

断を前提において誤ったものであり,結論に影響を及ぼすから,違法として取り消 されるべきである。
(1) 本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り(取消事由1)
ア(ア) 本件審決は,「引用発明の「円筒」は,画像表示装置に表示されるメニュ ーアイテムを円筒形に配置することと,メニューアイテムの回転移動を説明するた めに使用されている用語であるから,引用発明の「円筒」は仮想的なものであって, 本願補正発明の「仮想的な環」に相当する」(5頁33行~36行)と認定した。
(イ) しかしながら,円筒と環とは,全く異なるものである。例えば,広辞苑(甲 11)によれば,「円筒」とは,「まるい筒」のことであり,「筒」とは「円く細長く て中空になっているもの」であるから,「円筒」は,「円く細長くて中空になってい るもの」と理解することができ,3次元の形状を持つものである。他方,広辞苑(甲 11)によれば,「環」とは,「長いものをまげて円くしたもの。また,円い形のも の」であるので,2次元の形状を持つものである。実際,引用刊行物を見ても,「円 筒」は3次元の形状を持つものであり,「複数の6角形のメニューアイテムを円筒形 に配置」した結果,複数の6角形のメニューアイテムは3次元的(空間的)に配置 されている(甲1の【0032】,【図5】参照)。他方,本願補正発明の「環」は2 次元の形状を持つものであり,「複数の図形は仮想的な環内に配置され」た結果,複 数の図形は2次元的(平面的)に配置されている(本件明細書等の【図2】参照)。
したがって,引用発明の「円筒」は本願補正発明の「仮想的な環」に相当するも のではなく,この点を一致点として認定した本件審決は,その前提において誤って いる。
イ(ア) 本件審決は,「引用発明において,円筒の回転軸が「スクリーン外」にある ことは明らかである」(6頁3行~4行)と認定した。
(イ) しかしながら,甲1の【0034】記載のとおり,メニューアイテムの表示 は「円筒の中心から外周側を眺めるように」行われるから,メニューアイコンが配 置された円筒の内周部分のうち,観察者の視野に含まれる部分が観察者の目に投影
6

される。そして,観察者の目に映る像が,甲1の【図7】に示されるように画像表 示装置に表示される。したがって,画像表示装置のスクリーンに対応する観察者の 目は円筒の中心(すなわち回転軸上)に位置するため,円筒の回転軸は「スクリー ン外」ではなく「スクリーン平面内」に存在する。
よって,引用発明の円筒の回転軸は「スクリーン外」にはなく,この点を一致点 として認定した本件審決は,その前提において誤っている。
ウ(ア) 本件審決は,「引用発明の電子装置において,ボタンを操作して円筒を左又 は右方向に回転させることによりスクリーン上に順々にメニューアイテムが表示さ れるから,引用発明の電子装置は,本願補正発明と同様に複数の図形をスクリーン 上で移動させ,仮想的な環を回転させる「移動手段」を有しているということがで きる」(6頁5行~9行)と認定した。
(イ) しかしながら,引用発明の「円筒」は本願補正発明の「仮想的な環」とは異 なるものであるので,引用発明が「仮想的な環を回転させる移動手段」を有するこ とはない。
したがって,引用発明が「仮想的な環を回転させる「移動手段」を有している」 とすることはできず,この点を一致点として認定した本件審決は,その前提におい て誤っている。
エ 以上のとおり「,前記複数の図形は仮想的な環内に配置され,前記移動手段は, 前記仮想的な環を,回転させるように構成され,前記仮想的な環の回転軸は前記ス クリーン外にあ(る)」点を本願補正発明と引用発明との一致点とした本件審決の認 定は誤りであるから,本件審決は取り消されるべきである。
(2) 周知技術の認定の誤り(取消事由2)
ア 本件審決は,甲2~甲5から,「複数の図形の一部を表示するために,複数の 図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示す ること」(6頁末行~7頁1行)が周知技術であると認定した。
イ しかしながら,本件審決の上記認定は,以下のとおり甲2~甲5の解釈を誤 7

ったものであり,失当である。
(ア) 甲2(特開平8-76225号公報) 本件審決は,「特開平8-76225号公報(段落【0018】~【0028】図
2,図3,液晶表示装置に記号を円弧状に配置して回転させることが記載されてい る。)」(7頁2行~3行)と認定した。
しかし,甲2では記号が回転するようなことはない。本件審決は,甲2の【図3】 (a)の状態から回転設定ダイヤル6が時計回りに回転する度に,記号L4→記号 L5→記号L1→記号L2のように三角形の記号の表示位置が変化する様を「記号 の回転」と見たのかもしれないが,記号L1~L5は,同時には1つしか表示され ないので,「記号を円弧状に配置」という認定は失当である(複数の記号を位置をず らして配置して初めて円弧などの形状が認識されるのであって,1つの記号が単独 で円弧を形成することは不可能である)。
また,記号L1~L5は,同時には1つしか表示されないので,甲2は「複数の 図形を含む仮想的な環......を......回転させる」ことを周知技術として立証するため の適格性を有しない。さらに,甲2において,液晶表示装置4に表示される円弧(ら しきもの)は仮想的なものではないので,「仮想的な環......を......回転させる」こと を周知技術として立証するための適格性を有しない。
(イ) 甲3(特開平10-49290号公報)
本件審決は,「特開平10-49290号公報(段落【0044】図5,メニュー (文字)を含む環の一部が画面内に表示されて回転することが記載されている。)」 (7頁3行~5行)と認定した。
しかしながら,甲3においては,環状のメニューは上下左右に平行移動するだけ であり,回転はしないので,本件審決の上記解釈は,明らかに誤りである。
(ウ) 甲4(特開平7-98640号公報)
本件審決は,「特開平7-98640号公報(段落【0086】~【0087】図 19,図20,複数のオブジェクトを配置した回転可能なオブジェクトホイールの
8

一部をスクリーン上に表示することが記載されている。)」(7頁5行~8行)と認定 した。
しかしながら,甲4の【図19】が示すオブジェクトホイールは円筒形であり, 引用発明の「複数の6角形のメニューアイテムを円筒形に配置する」を超える開示 は存在しない。したがって,甲4は,引用発明と本願補正発明との相違点を評価す るための証拠としての適格性を有さない。
また,この点を措くとしても,甲4においては,表示スクリーンには曲率を持つ 円筒形のオブジェクトホイールではなく,平坦な長方形が表示されるだけであり (【図18】参照),円筒が表示スクリーンを含む平面内で回転することはないし, 果物オブジェクトは表示スクリーン上で直線的な移動はするが回転移動はしない。 したがって,甲4において「回転可能なオブジェクトホイールの一部をスクリーン 上に表示する」とした本件審決の解釈は,失当である。
(エ) 甲5(特開平8-305872号公報)
本件審決は,「特開平8-305872号公報(段落【0025】~【0027】 図5,図16,1~Mのアイコンの内,9個のアイコンを回転移動可能にキャラク タの周りに配置して画面に表示することが記載されている。)」(7頁8行~11行) と認定した。
しかしながら,甲5は,色パレットアイコンの移動を開示するのみであり,回転 については開示していないから,甲5が「9個のアイコンを回転移動可能に......配 置」とした本件審決の認定は失当である。また,甲5では,「複数の図形の一部」に 対応するものは,表示されている9個のアイコン(【図16】の例では,アイコン1, 2,3,4,5,M-3,M-2,M-1,M)である。すると,複数の図形の(全 部ではなく)一部がキャラクタ310の周りに円形に並ぶことになる。したがって, 複数の図形の(全部ではなく)一部が円形に並んだ甲5に基づいて,「複数の図形を 含む仮想的な環の一部を......回転させる」ことが周知技術であると認定してはなら ない 。
9

ウ 以上のとおり,甲2~甲5は,いずれも,「複数の図形の一部を表示するため に,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるよ うに表示すること」が周知であることを立証する上での適格性を欠く。
したがって,本件審決は,立証されていない周知技術に基づいて引用発明と本願 補正発明との相違点を想到容易と判断したものであり,誤りである。
(3) 本願補正発明と引用発明との相違点についての判断の誤り(取消事由3)
ア 本件審決は,「仮想的な環及びその回転軸とスクリーンとの位置関係をどのよ うなものとするかは設計的事項である。/そうすると,上記周知技術に基づいて, 引用発明の仮想的な環をスクリーンを含む平面内で回転させるように構成し,前記 仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれるようにして本願補正発明のように 構成することは当業者が容易になし得ることである」(7頁12行~17行。「/」 は改行を示す。以下同様。)と判断したが,周知技術の認定が失当であることは上記 (2)のとおりである。
イ この点を措いて,仮に,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を 含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示するこ と」が周知技術であるとしても,この周知技術に基づいて引用発明を本願補正発明 のように構成することは不可能であるし,引用発明を本願補正発明のように構成す ることは容易でも設計的事項でもない。以下,具体的に説明する。
(ア) 阻害要因
引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」とい う認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものである(甲1の【0 009】~【0011】参照)。他方,本件審決が認定した周知技術は,「仮想的な 環の一部をスクリーンを含む平面内で回転」とあることから明らかなとおり,2次 元的な表現を前提としたものである 。
したがって,仮に上記技術が周知であったとしても,引用発明が否定した2次元 的な表現に係る周知技術を引用発明に適用することは,当業者にとって容易でも設
10

計的事項でもない。
(イ) 引用発明に対する周知技術の適用に係る論理の破綻 本件審決が引用発明に対して周知技術を適用しようとする論理は破綻しており,
審決が述べるとおりに引用発明及び周知技術から本願補正発明を得ることは不可能 である。
本件審決は,「上記周知技術に基づいて,引用発明の仮想的な環をスクリーンを含 む平面内で回転させるように構成し,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に 含まれるようにして本願補正発明のように構成する」(7頁14行~16行)という が,ここで,「引用発明の仮想的な環」は,例えば甲1の【図5】に示される円筒で あり,円筒の側面(メニューアイテムが配置されている部分)は平面ではなく曲面 である。他方,「スクリーンを含む平面」は文字どおり平面である。したがって,円 筒をスクリーンを含む平面内に配置するためには,円筒の側面を平面に加工する必 要があるが,こうして得られた側面が平面である物体は,もはや円筒ではない。
このように,本件審決がいうように,「スクリーンを含む平面内」に円筒を配置し ようとすると,「円筒」がもはや円筒ではなくなり,しかも,これを回転させること もできないのであるから,本件審決の論理は破綻している。
(ウ) 以上のとおり,本件審決が認定した周知技術に基づいて引用発明を本願補正 発明のように構成することはできず,周知技術に基づいて引用発明を本願補正発明 のように構成することが容易であるとした本件審決の判断は,誤りである。
2 被告の反論
(1) 本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り(取消事由1)に対し
広辞苑の「かん【環】」の説明(乙1)をみると,「1玉の輪。たまき。2環
の形をなすもの3まわりめぐること。とりまくこと。「循-」「-境」」と記載され, 大辞泉の「かん【環】」の説明(乙2)をみると,「1円くめぐって終わりのない形。 輪。」と記載されているから,「環」には,原告の主張する意味以外に,「まわりめぐ ること。とりまくこと,円くめぐって終わりのない形」の意味を有していることが
11

理解できる。そして,本願補正発明は,小さな表示装置であっても,多数の図形を 仮想の環に配置してその一部を表示装置に表示し,他の図形を表示する場合には, 表示された図形を順次移動させることにより表示しようとするもであるから,本願 補正発明において「仮想の環」とは,メニューアイテム(図形)がまわりめぐって 表示されることを意味していると解するのが合理的である。
「環」については,特許公報をみても,特開平9-257451号公報(乙3) に「円環状の円筒部15」(4頁13行~14行,【図2】,【図3】参照)と記載さ れ,特開平9-56762号公報(乙4)2頁右欄末行に「ベルト環」(【図3】参 照)と記載されているように,長い帯状のものを曲げて丸くしたもの(円筒,ベル ト等を円くしたもの)が環と称されている。
引用発明の円筒及び本願補正発明の仮想的な環は,複数のメニューアイテム(図 形)の中から,表示装置(スクリーン)に一部のメニューアイテム(図形)を表示 されるに際して使用される,単なる仮想の概念である。円筒全体,あるいは環全体 が表示装置(スクリーン)に表示されるわけではなく,当然のことながら,表示装 置(スクリーン)外のメニューアイテム(図形)をユーザが見ることはない。複数 のメニューアイテム(図形)は全てメモリ等の記憶手段に個別のメニューアイテム (図形)として記憶されているだけである。
引用発明も,本願補正発明も,表示装置(スクリーン)を見る者にとって,表示 装置(スクリーン)に今現在表示されているメニューアイテム(図形)だけではな く,移動手段によって,今現在表示されているメニューアイテム(図形)以外のメ ニューアイテム(図形)を表示させ得る点で共通の技術思想を有するものである。
したがって,本件審決が一致点の認定に際し,「引用発明の「円筒」は,画像表示 装置に表示されるメニューアイテムを円筒形に配置することと,メニューアイテム の回転移動を説明するために使用されている用語であるから,引用発明の「円筒」 は仮想的なものであって,本願補正発明の「仮想的な環」に相当する」としたこと に誤りはない。
12

イ 引用発明,本願補正発明を問わず,人間が物を見る場合に目に像が結像する ことは当然であるが,本願補正発明において「スクリーン」とは,画像表示装置の スクリーンを意味しており,本願補正発明のスクリーンに対応するものは,引用発 明においても人間の目でないことは自明である。引用刊行物の【0034】に「図 5や図6はメニュー全体の構成を示しているが,実際に,画像表示装置5において メニューが表示される場合は,これらの円筒の中心から外周側を眺めるように,例 えば,図7に示すように,一定数のメニューアイテムが表示される」と記載されて いるように,引用発明において【図5】,【図6】に記載されているように円筒形に 配置された多数のメニューアイテムの一部が【図7】に記載されているように画像 表示装置に表示されるのであって,表示装置を見る人間の目が本願補正発明のスク リーンに対応するものでないことは明らかである。
画像表示装置は上記円筒の中心にあるのではなく,円筒の部分に存在するといえ るから,引用発明において円筒の回転軸が「スクリーン外」にあるとした本件審決 の認定に誤りはない。
ウ 引用発明の「円筒」は本願補正発明の「仮想的な環」とは異なるとする原告 の主張が誤りであることは上記のとおりであって,引用発明の「円筒」は本願補正 発明の「仮想的な環」とは異なることを根拠とする原告の主張は誤りである。
したがって,引用発明が「仮想的な環を回転させる「移動手段」を有している」 とした本件審決の認定に誤りはない。
(2) 周知技術の認定の誤り(取消事由2)に対し
ア 甲2において,記号L1~L5は環状に配置されており,また,その一部が 順に表示され,回転されているということができる。また,周知技術は,甲2のみ ではなく,甲3~甲5を含め全体として判断すべきものであって,甲2の記載のみ をもって判断すべきではない。
イ 甲3には,「また,ここでは,装置が回転すると,カーソルがメニュー上を移 動し,所定のメニュー項目を選択できるようにしたが,図5に示すように,カーソ
13

ルを画面内の所定の位置,例えば中央に固定し,装置が回転すると,メニューが画 面内を移動するようにすることも可能である。このようにしても,メニュー項目の 所定のものを選択することができる」(【0044】)と記載され,また,「図7は, ドラム状のメニューの例を示している。このように,あたかもドラム上にメニュー 項目が配置されるかの如く表示され,所定の位置に矩形のカーソルが表示される。 ユーザは,まず,操作ボタン2を押下し,次に,装置をX軸の回りに回転させる。 これにより,ドラムが回転し,カーソル内に所望のメニュー項目が移動したとき, 操作ボタン2を離す。このようにして,ドラム状のメニューの所望のメニュー項目 を選択し,確定することができる」(【0048】)と,ドラム状のメニューが回転す ることが記載されており,【図5】には,カーソルを固定して,円環状のメニューが 画面内を移動することが記載されており,当該記載に接した当業者であれば,円環 状のメニューが画面内を移動するとは,円環状のメニューが回転すると解するのが 自然である。
ウ 甲4の【0087】の記載からすると,原告が主張する【図18】は従来技 術を説明した図であり,発明の概念図は【図19】,【図20】である。
そして,【図19】,【図20】において,オブジェクトホイール上のオブジェクト とスクリーン37を見た当業者ならば,甲4には,複数の図形の一部を表示するた めに,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させる ように表示することが記載されていると理解することは明らかである。
エ 甲5には,【図5】に関し,「ここでは7つのパーツアイコン303がキャラ クタ310のまわりに配置されている。更にこの実施例に従い,複数個の操作アイ コンは左右キー操作により,左または右まわりに回転する」(【0016】)と記載さ れ,さらに,「本装置の操作アイコン回転表示機能に従い,左右キー操作に対して色 パレットアイコン306は左または右に回転移動する(図18参照)」(【0027】) と記載されており,複数の循環配置されたアイコンの一部がスクリーンに表示され, スクリーン外に出たアイコンを含めてアイコンが順次回転移動してスクリーンに表
14

示されることが明記されているということができる。甲5には,【図16】において, 1~Mの合計M個のアイコンが仮想の環状に設けられており,画面には,アイコン 1~5,M-3~M,の合計9個のアイコンが略円周上に表示されており,画面の 外には,アイコン6~M-4が配列されており,キーを操作することにより,アイ コンが順次移動して画面に表示されることが記載されている。したがって,甲5に は,複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部が画 面を含む平面内で回転されるように表示されているということができる。
オ 甲2~甲5に記載されている技術は上記のとおりであって,「複数の図形の一 部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面 内で回転させるように表示すること」が周知であるとした本件審決の認定に,誤り はない。
(3) 本願補正発明と引用発明との相違点についての判断の誤り(取消事由3)に 対し
ア 阻害要因の有無
引用発明において,図形は,本願補正発明の電子装置のスクリーンに相当する画 像表示装置の画面に表示されるものであり,平面であるスクリーンには必要に応じ て様々な表示形態で表示がなされることはいうまでもない。また,周知技術は,引 用発明と共通の技術的意義を有するものであり,両者は,表示対象として仮想した 図形の配置が2次元のものであるか3次元のものであるかの差にすぎない。そして, 引用発明においても,表示は結局のところ2次元平面にされることになるのである から,表示対象として仮想した3次元のものを2次元のものに変更することに何ら の阻害要因もないことは明らかである。
イ 引用発明に対する周知技術の適用について
引用発明と周知技術は,表示が2次元のスクリーンによって行われる点で何ら相 違せず,しかも,技術的意義においても共通する。そうすると,引用発明は,仮想 的な環を前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成されているものでは
15

なく,また,仮想的な環の一部の図形はスクリーンに表示されるが,仮想的な環の 一部がスクリーン内に含まれているものではない点で本願補正発明と相違している が,複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をス クリーンを含む平面内で回転させるように表示することが周知であること,仮想的 な環及びその回転軸とスクリーンとの位置関係をどのようなものとするかは設計的 事項であることから,当業者がメニューを環状に配置することの技術的意義の共通 性に着目し,引用発明の仮想的な環を周知技術のものに換えて,仮想的な環をスク リーンを含む平面内で回転させるように構成し,前記仮想的な環の一部は前記スク リーン内に含まれようにして,本願補正発明のように構成することは当業者が容易 になしえたことであり,本件審決の論理づけに何ら誤りはない。
引用刊行物1の【図5】,【図6】からは,円筒にメニューアイテムを配した様子 が描かれているが,この実施態様は,引用発明のメニュー全体の構成例にすぎない (【0032】)。また,引用刊行物の【0034】~【0035】の記載から明らか なとおり,引用発明において重要なことは,メニューアイテムが円筒に配されるこ とではなく,1ユーザに対し,常に選択しやすい数のメニューを表示しつつ,メニ ューアイテムの増加に対応すること,2メニューアイテムを探して所望のものが見 つからないとき,初めのメニューアイテムが表示された状態に自動的に戻る(回り 巡って戻ってくる)こと,である。
引用発明において多数のメニューアイテム(図形)をスクリーンに順次表示する ために,図形を円筒以外の面に配することは引用刊行物の【0035】の趣旨に何 ら反するものではなく,当業者が,メニューを環状に配置することの技術的意義の 共通性に着目して周知技術を考慮し,引用発明の仮想的な円筒を周知技術のものに 換えて,図形をスクリーンを含む平面内で回転させるように構成することは,当業 者が容易にできることである。また,1ユーザに対し,常に選択しやすい数のメニ ューを表示しつつ,メニューアイテムの増加に対応すること,2メニューアイテム を探して所望のものが見つからないとき,初めのメニューアイテムが表示された状
16

態に自動的に戻る(回り巡って戻ってくる)こと,という引用発明の機能を維持す るために,仮想的な環の一部のみをスクリーン内に表示することは,引用刊行物の 【0035】の記載に従うならば必然である。
したがって,周知技術に基づいて引用発明を本願補正発明のように構成すること は不可能であるとする原告の主張は誤りである。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由2(周知技術の認定の誤り)及び取消事由3(本 願補正発明と引用発明との相違点についての判断の誤り)は理由があり,審決は, 違法として取り消されるべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである(な お,本願補正発明及び引用発明に関する認定については,後に必要な範囲で触れる こととする。)。
1 取消事由2(周知技術の認定の誤り)について
(1)ア 甲2(特開平8-76225号公報)には,図面(別紙参照)と共に以下 の記載がある。 「【0018】さて,本発明によれば,上述したようなカメラ1において,各種撮影 情報等を設定するための回転式の設定操作部材である回転設定ダイヤル6と,この 設定ダイヤル6によって設定される撮影情報を表示するための液晶表示装置4とを, 以下の通り構成している。 【0019】すなわち,この液晶表示装置4での複数の機能を示す記号等による表 示を略円弧状に配置し(図2等参照),設定ダイヤル6の回転中心を,この円弧の中 心に略一致するように略同心円周上に位置させて,液晶表示装置4の下方に回転可 能に軸支して配設するように構成している。 【0020】なお,この回転ダイヤル6は,その外周の一部が,カメラ本体の背面 側に露出し,撮影者は指を掛けて回転操作可能となっている。また,この実施例で は,カメラの多機能化に伴なって大型化されている液晶表示装置4を用い,これを カメラの上カバー2においてペンタプリズム部の一側寄り部分に,従来の回転ダイ
17

ヤル付設個所を含めて付設するようにしている。 【0021】そして,このような構成によれば,液晶表示装置4の円弧状の表示を, その下方に配設される回転設定ダイヤル6の回転中心と略同心円上に配置し,設定 ダイヤル6の回転を検出して表示を切り換えるように構成することにより,機能を 増やして表示が多くなっても撮影情報設定時の操作性を良くすることができる。 【0022】また,本発明によれば,液晶表示装置4と回転設定ダイヤル6とを表 示装置保持部材としての後述する表示装置保持台で上下に積層した状態で一体に構 成し,かつカメラ本体の上カバー2に組込み配置することにより,カメラ1を大き くせずに,液晶表示装置4の表示面積を確保することが可能となる。 【0023】まず,図2の(a),(b),図3の(a),(b)を用いて本発明でのカ メラ1に使用される液晶表示装置4における表示部について,以下に説明する。こ こで,図2の(a)は全ての記号を表示した状態を,図2の(b)は初期状態の表 示を示し,また図3の(a)は選択釦8が押された状態の表示を,図3の(b)は 確定釦9が押された状態の表示を示す。 【0024】これらの図において,L1~L5は各機能項目を指示するための表示 内容である記号,L6~L20は各機能を示す表示内容である記号であり,各機能 項目毎にまとめられ,装置表示部に印刷された境界線L21によって機能項目毎に 区切られている。なお,これらの表示は,透明板等による観察用窓部材5によって 外部から観察できるようになっている。」
イ 本件審決は,甲2の上記記載及び【図2】,【図3】を引用して,「液晶表示装 置に記号を円弧状に配置して回転させることが記載されている」と認定した。しか し,上記記載及び図面によれば,甲2において,液晶表示装置4での複数の機能を 示す記号等による表示を略円弧状に配置したものであるが,各機能を示す記号等は, 回転ダイヤル6の回転に伴い,表示,非表示が制御されるものであって,各機能を 示す記号等の表示位置が回転移動するものとは認められない。
(2)ア 甲3(特開平10-49290号公報)には,図面(別紙参照)と共に以 18

下の記載がある。 「【0031】その結果,図3の(b)に示すように,所定のメニューと,所定のカ ーソル(この場合,十字型の形状をしている)がLCD3の画面に表示される。こ の場合,最初,カーソルはメニューの中央に表示される。」 「【0033】ステップS4において,機器全体が回転されたと判定された場合,ス テップS5に進み,CPU14は,X軸に関する回転量を抽出する。次に,ステッ プS6において,Y軸に関する回転量を抽出する。ステップS7においては,X軸 とY軸のそれぞれの回転量に応じて,カーソルを上下左右方向に移動させる。」 「【0035】カラーLCDコントローラ18は,VRAMに記憶した移動後のカー ソルに対応するビットマップデータに従ってLCD3を制御する。これにより,最 初,図3(b)に示したようにカーソルが画面の中央にある状態で,機器全体をX 軸回りに回転させたとき,例えば,図3(c)に示すように,カーソルが項目「B anana」に移動する。また,最初,図3(b)に示したようにカーソルが画面 の中央にある状態で,機器全体をY軸回りに回転させたとき,例えば,図3(d) に示すように,カーソルが項目「Apple」に移動する。」 「【0044】また,ここでは,装置が回転すると,カーソルがメニュー上を移動し, 所定のメニュー項目を選択できるようにしたが,図5に示すように,カーソルを画 面内の所定の位置,例えば中央に固定し,装置が回転すると,メニューが画面内を 移動するようにすることも可能である。このようにしても,メニュー項目の所定の ものを選択することができる。」
イ 本件審決は,上記【0044】及び【図5】の記載を引用して,「メニュー(文 字)を含む環の一部が画面内に表示されて回転することが記載されている」と認定 した。しかし,上記記載及び図示によれば,甲3においては,装置の回転に伴って メニューが画面内を「移動する」のであって,「メニュー(文字)を含む環の一部が」 「回転」するものではない。
(3)ア 甲4(特開平7-98640号公報)には,図面(別紙参照)と共に以下 19

の記載がある。 「【0086】本願発明のユーザーインターフェースでは,大きなグループのオブジ ェクトからユーザーが選択を行えるようにする方法を提供する「オブジェクトホイ ール」を導入する。オブジェクトホイールでは,グループ内の残りのオブジェクト はスクリーン表示せずに,オブジェクトホイールの中ですぐにアクセス可能な少数 のオブジェクトを表示スクリーン上に表示する。スクリーンに表示されていないオ ブジェクトにアクセスするには,ユーザーはオブジェクトホイールを「スピン」さ せてアクセスできなかったオブジェクトを表示スクリーン上に表示させる。 【0087】図18において,多数の果物オブジェクトをユーザーは選択の対象と して利用可能であるが,表示スクリーン37の横方向に一度に表示できるのはその うちわずかに4つの果物だけである。利用できる全ての果物オブジェクトにユーザ ーがアクセスできるよう,本願発明では図19の概念図に示すように「オブジェク トホイール」38に果物オブジェクトの帯を設けている。オブジェクトホイール3 8上の幾つかのオブジェクトは表示スクリーン37上ですぐにアクセスすることが できる。表示スクリーン37に表示されていないオブジェクトにアクセスするには, ユーザーはオブジェクトホイール38を回転させればよい。オブジェクトホイール 38が回転するにつれ,図20に示すように新しいオブジェクトが現れ,別のオブ ジェクトは消えていく。タッチスクリーンディスプレイ37に示されているオブジ ェクトホイールを操作するため,オペレーターは航海用ジェスチャー(navigationa l gestures) すなわちポイント,スピン,ピックアップジェスチャーを使用する。 これら3つの航海用ジェスチャーは後の章で説明する。」
イ 本件審決は,甲4の上記記載及び【図19】,【図20】を引用し,「複数のオ ブジェクトを配置した回転可能なオブジェクトホイールの一部をスクリーン上に表 示することが記載されている」(7頁7行~8行)と認定した。しかし,上記記載及 び【図19】,【図20】の図示によれば,甲4の「オブジェクトホイール」は,円 筒状のものであって,「平面内で回転させる」ものではない。
20

(4)ア 甲5(特開平8-305872号公報)には,図面(別紙参照)と共に以 下の記載がある。 「【0025】色変更画面(2)106(図16)において,ユーザーはパーツの色 を変更する。このために,色変更画面(2)106は色変更用の背景上に,キャラ クタ310,年体格アイコン300を含むとともに,操作アイコンとして図17に 示すような色パレットアイコン306が9個,キャラクタ310のまわりに配置さ れる。 【0026】本装置は色パレットアイコン306を複数(M)個内蔵している。色 パレットアイコン306はパーツがもち得る色を表わすアイコンであり,互いに異 なる色(図17の斜線で示す代表色)をもっている。したがって,パーツがとり得 る色(の組み合わせ)の数と色パレットアイコンとは1対1対応である。 【外1】
これらM個の色パレットアイコン306のセットのなかから一度に9個のアイコン 306が画面106上においてキャラクタ310のまわりの9つの位置“1”~“5”, “M-3”~“M”に表示される。 【0027】本装置の操作アイコン回転表示機能に従い,左右キー操作に対して色 パレットアイコン306は左または右に回転移動する(図18参照)。位置(1)に 好ましそうな色の色パレットアイコン306が現われると,ユーザーはAキー10 Aを押す。これに対し,キャラクタ画像装置は,画面103で選択したパーツにつ いて,その色を位置(1)にある色を色パレットアイコン306に対応するものに 変更する。結果が満足できなければユーザーは再び左右キー,Aキー操作をくり返 してパーツの色を別の色に変えてみる。パーツの色を決定したら,ユーザーはBキ ー10Bを押す。これにより,画面は下層の色変更画面(2)106から上層の色 変更画面(1)103へ戻る。」
イ 本件審決は,甲5の上記記載及び【図5】,【図16】を引用して,「1~Mの 21

アイコンの内,9個のアイコンを回転移動可能にキャラクタの周りに配置して画面 に表示することが記載されている」(7頁9行~11行)と認定した。
しかし,上記記載及び図示によれば,甲5において,操作アイコンとして色パレ ットアイコン306が9個,キャラクタのまわりに配置され,左右キー操作に対し て色パレットアイコン306は左または右に回転移動するものであるが,表示され る色パレットアイコンは,M個のうちの9個である。ここで,Mが9より大きい場 合,9個の色パレットアイコンは仮想的な環の上に配置されて回転移動するが,残 りのM-9個の色パレットアイコンは,仮想的な環の上に配置されていないことは 明らかである。そうすると,甲5においては,M個の色パレットアイコンの全てが 仮想的な環の上に配置されるものではないから,M個のうちの9個の色パレットア イコン回転移動して表示することは「,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリ ーンを含む平面内で回転させるように表示する」とはいえない。
また,Mが9以下の場合,仮想的な環の上に配置される色パレットアイコンは, キャラクタのまわりに全部表示されるから,「仮想的な環の一部」を表示するもので はない。
以上から,甲5においては,Mが9より大きい場合,9以下の場合のいずれの場 合であっても「,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回 転させるように表示する」ものと認めることはできない。
(5) 上記のとおり,本件審決が周知技術の認定に当たって例示した甲2~甲4は, 「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるよう に表示する」ものではない。また,甲5は,円環状に配置された部分以外に表示さ れないアイコンがあり,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平 面内で回転させるように表示する」ことが記載されているとはいえない。
したがって,本件審決が証拠として引用した甲2~甲5からは,「複数の図形を含 む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」こと が周知技術であると認定することはできず,本件審判において,ほかに上記事項を
22

周知技術と認めることができる証拠はない。 被告は,甲3~甲5の記載を引用し,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスク
リーンを含む平面内で回転させるように表示させることにより,図形が回転移動さ れてスクリーンに順次表示され1回転すると元に戻るようにして,ユーザが図形を 選択できるようにすることは,周知技術であると主張するが,甲3の【0044】 の記載は「装置が回転すると,メニューが画面内を移動する」のであって,メニュ ーが回転するものではないし,【0048】の記載は「ドラム状のメニュー」の回転 であって,「平面内で回転する」ものではなく,甲4及び甲5も「複数の図形を含む 仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」もので ないことは上記のとおりである。
(6) 以上検討したところによれば,「複数の図形の一部を表示するために,複数の 図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示す ること」が周知技術であるとした本件審決の認定は誤りであり,取消事由2は理由 がある。
2 取消事由3(本願補正発明と引用発明との相違点についての判断の誤り)に ついて
(1) 本件審決の周知技術の認定が誤りであることは上記のとおりであるから,「上 記周知技術に基づいて,引用発明の仮想的な環をスクリーンを含む平面内で回転さ せるように構成し,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれるようにし て本願補正発明のように構成することは当業者が容易になし得ることである(」7頁 14行~17行)とした本件審決の判断も誤りであることは,原告主張のとおりで ある。
(2) 原告は,仮に,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮 想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示すること」が周 知技術であるとしても,この周知技術に基づいて引用発明を本願補正発明のように 構成することには阻害要因があり,容易想到ではない旨主張するので,引用発明か
23

らの容易想到性について,念のため,以下検討する。
ア 認定
(ア) 本願補正発明について
a 本願補正発明の特許請求の範囲は,前記第2,2(1) のとおりである。 b 本件明細書等には,図面(別紙参照)と共に以下の記載がある(甲6)。
「【0001】 【発明の属する技術分野】
本発明は,複数の図形を表示しなければならないスクリーンと,それらの図形を 動かすための移動手段と,を有して成る電子装置に関する。」
「【0004】
そのような装置に生じる問題点は,それらの装置が持っているスクリーンは小さ いのに対し,項目又はアイコンを持つメニューが豊富になるので,一層大きいスク リーンの必要性が増大していることである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は,冒頭に述べたタイプの電子装置であって,表示しようとするこ
れらのアイコンを知覚できるようにする手段を設けてある装置を提供することであ る。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この目的のために,そのような電子装置は,上記移動手段が,可視化しようとす る図形を回転させるための手段により構成されることを特徴とする。 【0007】
本発明の考え方は,種々の異なる図形を1つの環内に置き,それによりスクリー ンの常に縮小されて行く表面を最大限に利用しようというものである。これらの図 形は位置をずらせて提示することにより,小さいスクリーン上でユーザーが更に見
24

やすくなるようにし,それと同時にこれらの図形を相互に区別して認知できるよう にする。」
「【実施例】
...... 【0011】
本発明によれば,種々の異なる可動図形が,虚構又は仮想的なやり方で,2つの 円C1, C2の間にある環50の中でその位置を変える。キイK2の右側又は左側の部分を 押下することにより,図形は左側なら矢印F1の方向に回転し,右側なら矢印F2の方 向に回転する。」
c 上記記載及び図示によれば,本願補正発明は,複数の図形を表示しなければ ならないスクリーンと,それらの図形を動かすための移動手段とを有して成る電子 装置に関し,スクリーンが小さいのに対し,項目又はアイコンを持つメニューが豊 富にあっても,表示しようとするこれらのアイコンを知覚できるようにするもので ある。このため,種々の異なる図形を1つの環内に置き,移動手段により,可視化 しようとする図形を回転させ,位置をずらせて提示することにより,小さいスクリ ーン上で見やすく,相互に区別して認知できるようにしたものである。したがって, 本願補正発明は,多数のアイコンの一部のみを表示することにより多数の図形を含 むメニューなどのGUIを実現する効果(以下「効果1」という。)を奏するもので ある。
また,本願補正発明における「環」は,種々の異なる図形を配置可能であって, 回転させ,位置をずらせて提示する仮想的なものを意味するものと認められる。そ して,「前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成さ れ」ることにより,スクリーンに表示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で 回転移動する様子から,環の大きさ(半径)の直感的な把握が可能となるとの効果 (以下「効果2」という。)を奏するものであることが理解できる。
(イ) 引用発明
25

a 引用刊行物(甲1)には,図面(別紙参照)と共に以下の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,画像制御装置および方法に関し,特に,階層 構造を有するメニューにおいて複数のメニューアイテムを3次元的に表示し,メニ ューアイテムのうちの1つを選択することが可能な画像制御装置および方法に関す る。」 「【0003】例えば,図21に示すメニューは,キャラクタジェネレータによって 表示されたビットマップデータによるGUIの一例である。この例では,所定のキ ャラクタをカーソルとして扱い,カーソルを移動させて,いずれかのメニューアイ テム(文字列)を選択し,実行する機能を選択する。」 「【0005】図21に示すGUIは,表示画面の大きさに制限があり,すべてのメ ニューアイテムを表示できない場合,残りのメニューアイテムを,新規の画面で表 示するか,あるいは画面スクロールを行って表示するなどの方法で,全メニューア イテムをユーザに対して表示している。」 「【0032】図5は,本実施例におけるメニュー全体の構成例を示しており,この メニューは,複数の6角形のメニューアイテムを円筒形に配置しており,これらの メニューアイテムが,ネイチャー,ドラマ,アクション,およびコメディにそれぞ れ対応し,メニューアイテムの中央に,ビットマップでそのメニューアイテムが有 する情報のタイトルやシンボルが表示される。 【0033】なお,本実施例の画像制御装置は,VODサービスのみを処理するよ うにしているが,オンラインショッピングやニュースなどが所定のサーバから送信 される場合は,それらの処理を行うことができるようにすることもできる。そのよ うな場合,それらのカテゴリが図4に示すように階層構造に付加される。メニュー としては,図6に示すように,縦方向に3つの円筒が用意され,これらの円筒形1 つ1つがオンラインショッピング,ニュース,およびムービーにそれぞれ対応し, これらの円筒が,それぞれ複数の6角形のメニューアイテムを有する。
26

【0034】また,図5や図6はメニュー全体の構成を示しているが,実際に,画 像表示装置5においてメニューが表示される場合は,これらの円筒の中心から外周 側を眺めるように,例えば,図7に示すように,一定数のメニューアイテムが表示 される。 【0035】このようにメニューアイテムを円筒形に配置し,ユーザに対して,常 に選択しやすい数のメニューアイテムのみを表示する。また,円筒形にメニューア イテムを表示しているので,メニューアイテムの数が増加した場合,円筒形の半径 を大きくすることで,簡単に,ユーザにメニューアイテムの増加を意識させずに, より多くのメニューアイテムを提供することができる。また,円筒は,円周方向に おいては閉じた曲面となっているので,例えば右方向にメニューアイテムを探し, 所望のものが見つからないとき,初めのメニューアイテムが表示された状態に自動 的に戻る。この点,平面上にメニューアイテムを配置すると,その端部に達したと き,単に戻す(探すのではなく)ためだけの操作が必要となるのと大いに異なる。」
b 上記記載及び図示によれば,引用発明は,表示画面の大きさに制限があり, 全てのメニューアイテムを表示できないものにおいて,メニューアイテムを円筒形 に配置し,ユーザに対して,常に選択しやすい数のメニューアイテムのみを表示す るとともに,メニューアイテムの数が増加した場合,円筒形の半径を大きくするこ とで,ユーザにメニューアイテムの増加を意識させずに,より多くのメニューアイ テムを提供することができるものである。そして,円筒は,円周方向においては閉 じた曲面となっているので,例えば右方向にメニューアイテムを探し,所望のもの が見つからないとき,初めのメニューアイテムが表示された状態に自動的に戻るも のである。したがって,引用発明は,本願補正発明と同様,効果1を奏するもので ある。
しかしながら,引用発明においては,スクリーンに表示されるメニューアイテム は,平面内で回転移動するものではなく,円筒形に配置されて,円周方向に回転移 動するものであるから,ユーザにメニューアイテムの増加を意識させるものではな
27

く,円筒の大きさの直感的な把握が可能となるものではないから,効果2を奏する とはいえない。
イ 検討
上記のとおり,引用発明の「円筒」は仮想的なものであって,本願補正発明の「仮 想的な環」に相当すると認められるが,本願補正発明においては,「前記仮想的な環 を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され」ているから,スク リーンに表示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で回転移動する様子から, 環の大きさの直感的な把握が可能となる(効果2)。これに対し,引用発明において は,スクリーンに表示されるメニューアイテムは,平面内で回転移動するものでは なく,円筒形に配置されて,円周方向に回転移動するものであるから,円筒の大き さの直感的な把握が可能(効果2)となるものではない。そして,仮に,「複数の図 形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含 む平面内で回転させるように表示する」との先行技術が存在するとしても(ただし, 本件においては認定できない。),引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースに は,表現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」 するものであるから,引用発明に上記先行技術を適用する動機づけはなく,引用刊 行物の「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」との記載は, 引用発明に「2次元的なユーザインタフェース」に係る上記先行技術を適用するに 当たって,阻害要因になるものと認められる。
したがって,「上記周知技術に基づいて,引用発明の仮想的な環をスクリーンを含 む平面内で回転させるように構成し,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に 含まれるようにして本願補正発明のように構成することは当業者が容易になし得る ことである」(7頁14行~17行)とした本件審決の判断は,仮に,本件審決の認 定した周知技術と同様の先行技術が存在するとしても,誤りである。
(3) 以上検討したところによれば,本願補正発明と引用発明との相違点について 容易想到とした本件審決の判断は誤りであり,取消事由3は理由がある。
28

3 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由2及び取消事由3には理由があるから,本件 補正を却下した本件決定は誤りである。したがって,本件審決は,本願発明の要旨 認定を誤ったものであり,この誤りは結論に影響を及ぼすことが明らかであるから, 違法として取り消されるべきである。
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
芝田俊文
岡本岳
武宮英子
29

(別紙) 本件明細書等の図面
30

引用刊行物の図面
31

甲2の図面
32

甲3の図面
33

甲4の図面
34

甲5の図面
35

f:id:SOL299792458:20170730132614j:plain