「ツインカートリッジ型浄水器」事件

「ツインカートリッジ型浄水器」事件
(ジョプラックス事件)
 
平成20年10月28日判決言渡
平成19年(行ケ)第10351号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年8月28日
無効2006-80131号事件
 
 

■概要

・基本契約(本件取引基本契約)と個別契約(本件開発委託契約)との多段階方式による一連の契約において、個別契約を合意解除した場合の共同出願義務の有無について争われた事件。
・本件では、個別契約において共同出願条項を定めた第6条(工業所有権)について、第8条(有効期間)では「1,本契約の有効期間は,本契約締結の日から第2条の委託業務の終了日までとする。2,前項の定めに関わらず,第5条(秘密保持)に関する定めは,この契約終了後5ヵ年間有効とし,第6条(工業所有権)に関する定めは,当該工業所有権の存続期間中有効とする。」と規定されていたことから、合意解約前の開発成果分についての共同出願義務を負うと認定され、共同出願違反(特許法38条)の無効理由が認められた。
 
■所感
・契約関係のトラブルは、幸いこれまでのところ業務上遭遇したことがない。数年前であるが、本件の判決を初めてみたとき、まず、原告の主張で「契約の成否」に関して述べてるあたりで、契約関係のトラブルの面倒くささが感じられた。
・調べてみると、開発委託がらみでの契約関係のトラブルは少なくないらしい。民法の奥深さを感じさせられる。
・被告の主張で興味深いものの一つとして、「 I は,平成12年当時,原告の従業員であるとともに被告の技術顧問でもあり,その給与は原被告が折半していた」と述べている。このような人物が開発会議などに参加する場合、要注意と言えそう。
・原告の主張で興味深いものの一つに、「仮に,債務不履行解除又は合意解約によって本件効力存続条項までもが 失効し,本件共同出願条項の効力が解除後に及ばないと解すると,原告が被告の開発費用を含めて開発費用の全額を負担し,開発に必要な中空糸膜及びインジケーターを支給し(甲5の第3条2項及び3項),原告のIが 開発に必要な情報を被告に対して提供しているのに対し,被告は開発費用をかけずに原告から得た情報を利用しながら特許を受ける権利を単独で手に入れ,独占的に開発成果を実施することができることになるという不合理な結果になる」と述べている点がある。原告の出張は一見妥当なように思える。しかし、本件発明は、「カートリッジ交換時期の表示塔を設けた構造で、しかもツインカートリッジ型に構成したコンパクトで大きな浄水処理能力を持つツインカートリッジ型浄水器を提供することを目的とする」というもので、「中空糸膜」そのものの発明ではない。そうすると、原告が提供した情報が、本件発明の創作にどの程度寄与したのか、疑問に感じなくもない。
・本件特許を巡っては、大阪地判平成20年8月28日(平成18年(ワ)第8248号特許権侵害差止請求事件)でも争われており、本件と同様の理屈により、「本件合意解約により,本件開発委託契約は終了したものであるが,本件共同出願条項は当然に失効するものではなく」とし、「本件特許は,特許法38条 に違反してされたものであり,同法123条1項2号により,特許無効審判で無効とされるべきもの」と判断されている。
・ 本件とは直接的には関係ないが、この事件がきっかけで契約関係のトラブルについて関心をもち、「契約締結上の過失」関連で論文を執筆したところ、大学から法学の学位をいただいた。
 
■審決の理由(抜粋)
(2) 原告は,本件特許を受ける権利が原告と被告の共有であると主張するが,その根拠となった開発委託契約書の共同出願の約定(甲5の第6条1項 (2))は,原告の債務不履行により民法541条に基づいて被告から解除されたために遡及的に消滅しているから,上記共同出願約定を根拠とする特許法38条の共同出願要件違反の無効理由とはならない

■原告の主張(抜粋)
(1) 共同出願要件違反(1)(債務不履行解除の事実認定の誤り)について
 審決は,原告と被告との間で締結した契約における共同出願約定につい て,被告の原告に対する平成13年1月26日付け書簡(甲8。以下「甲8 書簡」という。)が,原被告間で平成12年4月1日に締結されていた新型 のツインカートリッジ型浄水器の開発委託契約(甲5。以下「本件開発委託契約」という。)を債務不履行を理由として解除するとの意思表示に実質的に相当し,又はこれを示唆することが明らかである旨認定した(審決書37
頁)。 しかし,審決の債務不履行解除の事実認定には,次のとおり誤りがある。
ア 債務不履行が存在しないのに存在するとした誤り (ア) 金型代金額をめぐる交渉の事実経過等
 被告は,平成12年10月23日時点で金型製作代金額についての合意が成立していた旨主張するが,原告代表者は,被告代表者から経理の都合上とりあえず発注書を送付してほしいといわれて注文書(甲21) を発送したにすぎず(甲51の18頁),その時点では被告の見積金額6 501万円(乙7)と,原告の注文書の金額3000万円(甲21)と の間には3501万円の開きがあるから,原被告間において金型製作委託契約が成立していなかった
 仮に被告主張のとおり原告において6000万円で発注する決裁が終 了していたとしても,被告提出の平成12年10月23日の見積書(乙 7)の価格6501万と,6000万円(I作成に係る甲16-23) の間には501万円もの隔たりがあり,6000万円を被告が承諾する かどうかも不明であるから,原被告間においては,平成12年10月2 3日当時においても未だ金型代金について明確な合意がなかったといえる。
 原告は,被告の提案する金型製作の見積代金額が高すぎる上,従来から製品の品質面での問題も発生していたので,被告に対し,金型製作を 中国で行うことの検討を依頼していた(甲51)。その後,被告が応じら れないと回答したことから(甲51),原被告間で,平成12年11月に 1回,同年12月に2回,協議を継続していた。
 ところが,被告は,原告に,平成13年1月26日付けの書簡を送 り,「上記8の納期を前提としますと2月14日までに御決裁を頂きた く御願い申し上げます。」と述べた(甲8)。そこで,原被告間で,平成13年3月26日に協議をして,本件開発委託契約を合意解除した。
 以上のとおり,被告が決裁を求めた見積金額は,原告が承諾していな いものであるから,原告には,甲8書簡の見積内容を平成13年2月1 4日までに決裁する義務はなく,被告が甲8書簡で求めた決裁の義務不履行という債務不履行もない。
(イ) また,金型製作についての本件開発委託契約が締結されてはいるものの,金型の製作代金,量産する商品の数量,納期等の定めがない以 上,原告は,被告への金型製作量産委託義務を負担しているとはいえない。被告は,改めて金型製作等の個別契約を締結する際に,被告と交渉をする義務を負担しているにすぎない。したがって,金型製作量産委託義務又はその代金支払義務に係る債務不履行もない。
 なお,本件開発委託契約の3条2項には,被告が負担した開発費用 は,原告に納入する量産品原価に上乗せする旨が記載されているが,それは,あくまでも個別の金型製作委託契約が成立した場合の開発費用の 弁済方法について定めたものにすぎないのであって,この約定により金型製作量産委託義務が原告にあることを根拠付けることはできない。
(ウ) 本件開発委託契約は,開発が終了した時点で終了し,金型製作や, 製品量産は,金型製作委託契約等の別個の個別契約の締結により達成されるものであり,その契約締結交渉の過程において仮に原告に何らかの債務不履行があったとしても,それは本件開発委託契約とは別個の個別契約の債務不履行になり得るにすぎないから,本件開発委託契約の債務不履行解除の理由にはならない
(エ) 仮に被告主張のように金型製作代金額についての合意が成立し,その支払義務が原告にあるとしても,その履行期は未定であるから,その債務不履行もない。
(オ) 仮に,原告からの注文書(甲21)の送付によって何らかの合意が成立したとしても,原告代表者が被告の見積金額を承諾する意思のないことを,被告代表者において容易に知り得たから,その合意は,民法9 3条ただし書により無効である。
(カ) 仮に,本件開発委託契約に係る何らかの情報を原告が利用したとし ても,それは原告自身が利用したにすぎないのであって,第三者が利用 し得るような形で何らかの情報を流したわけではないから,秘密保持義務違反の債務不履行もない。
イ 解除の意思表示が存在しないのに存在するとした誤り
 解除権の行使に当たっては,「実質的相当乃至示唆」では足りず,解除の意思表示そのものの存在が必要であるが,甲8書簡には,被告による本 件開発委託契約の解除の意思表示が存在しない。したがって,その解除の意思表示が存在するとした審決は,誤りである。
(2) 共同出願要件違反(2)(解除の効果に係る判断の誤り)について
 審決は,債務不履行解除又は平成13年3月26日の合意解約によって本件開発委託契約6条1項の共同出願条項(以下「本件共同出願条項」とい う。)が遡及的に消滅し,同条項が本件特許の出願日以前にその効力を失っているから,特許法123条1項2号,38条の共同出願要件違反の無効原因を認めることができないとする。
 しかし,その審決の判断は,次のとおり誤りである。
ア 本件共同出願条項の効力の存続を看過した誤り
 本件開発委託契約の8条(有効期間)は,「1,本契約の有効期間は,本契約締結の日から第2条の委託業務の終了日までとする。 2,前項の定めに関わらず,第5条(秘密保持)に関する定めは,この契約終了後5 ヵ年間有効とし,第6条(工業所有権)に関する定めは,当該工業所有権 の存続期間中有効とする。」と定めているところ(以下「本件効力存続条 項」という。),8条1項の「委託業務の終了」には債務不履行解除又は 合意解除による終了も含まれるから,本件共同出願条項は,8条2項により本件特許の存続期間満了までその効力を有するものと解される。
 仮に,債務不履行解除又は合意解約によって本件効力存続条項までもが 失効し,本件共同出願条項の効力が解除後に及ばないと解すると,原告が被告の開発費用を含めて開発費用の全額を負担し,開発に必要な中空糸膜及びインジケーターを支給し(甲5の第3条2項及び3項),原告のIが 開発に必要な情報を被告に対して提供しているのに対し,被告は開発費用をかけずに原告から得た情報を利用しながら特許を受ける権利を単独で手に入れ,独占的に開発成果を実施することができることになるという不合理な結果になる。本件発明に係る製品の開発は遅くとも平成13年1月2 6日には完成し,これと対価的牽連関係にある開発費用は,原告が平成1 8年7月4日供託した金員として被告が受領している。したがって,本件 共同出願条項及び本件効力存続条項によって,本件発明の共有状態が解除 後も継続しており,被告による単独の特許出願は,特許法38条違反として無効である。
イ 本件取引基本契約の共同出願条項による共有状態を看過した誤り
 原告と被告は,従来から浄水器の開発販売に関して協力関係を継続しており,平成5年9月3日に締結された「取引基本契約書」(甲90。以下 「本件取引基本契約」という。)の「第15条 工業所有権等」においても,本件開発委託契約と同様に,共同出願の合意があり,出願の手続も原 告がするものと取り決められ,約8年間共同出願を継続してきた。したが って,仮に,本件開発委託契約が遡及的に消滅したとしても,本件開発委 託契約の成果は本件取引基本契約における上記共同出願条項に従って行わ れるべきであり,被告単独の出願は許されない。したがって,本件開発委 託契約の解除により本件取引基本契約における共同出願条項の効力が遡っ て消滅したとした審決は誤りである。
ウ 解除の将来効(解除の効果が遡及するとした誤り) 合意解約が契約内容を遡及的に消滅させるか否かは,合意解約時の特約の有無にのみ依拠するのではなく,契約の内容,性質,及び合意解約後の 実情から客観的かつ合理的に定められるべきである。本件開発委託契約 は,民法656条の準委任契約に該当するから,民法652条及び620 条の定めるところにより,その解除には遡及効がなく,将来に向かってのみその効力を生ずる。
エ 小括
 以上のとおり,平成13年2月14日当時,完成済みの本件発明について特許を受ける権利は本件共同出願条項又は本件取引基本契約中の共同出 願条項により原被告の共有状態にあり,その後の解除によってその共有状 態が遡及的に消滅するわけではないから,被告が単独で出願した本件特許 の登録については特許法123条1項2号,38条の無効事由が存在する ことになる。したがって,解除の遡及効を肯定して本件共同出願条項違反の無効原因が存在しないとした審決は誤りであって,取り消されるべきである。
(3) 共同出願要件違反(3)(原告の従業員が共同発明者であることを看過した誤り)について
 浄水器の具体的構造を示す図面に基づいて議論された開発検討会は,I,又はI及び原告従業員らが参加して12回開催され,本件発明1の開発に到達したから,Iも共同発明者である。その開発検討会に4回しか出席していない被告代表者Hが共同発明者とされながら原告のIが共同発明者でないとするのは不合理である。そして,原告は,「就業規則」(甲93の1及び 2)9条により,「Iが取得した特許を受ける権利」の移転を受けた。審決 は,Iが共同発明者であることを看過しているから,誤りである。

■被告の主張(抜粋)
(1) 共同出願要件違反(1)(債務不履行解除の事実認定の誤り)に対し
 本件開発委託契約は,原告が被告に対し,「NEWツイン(仮称)」(以 下「本開発品」という。)について,その1. 本開発品の基本設計,2. 試作及び性能評価業務,3. 金型の設計及び製作業務,4. 量産準備と開始に至るまでを委託したものであり(甲5の第2条),その委託業務の終了期限は平成1 3年1月末日までと定められ(3条1項),金型代金は原告の負担とされ (3条2項1文,3項),金型代金等を除く被告負担の開発費用は,被告が原告に納入する量産品の価格に上乗せすることによって最終的には原告が負担するものと合意されていた(3条2項3文)。したがって,本件開発委託契約は,原告が本開発品の量産までをも被告に委託することを本旨とするものであって,委託業務遂行途上で原告が被告以外の第三者に委託先を変更したり,その際,被告がした基本設計又は試作品を第三者に開示して使用させることを許容するものではなかった。
 そして,原被告は,遅くとも平成12年10月23日までに,「本開発品」の被告の納品価格を8600円とし(甲16-23,乙6),金型製作費の総額を6501万円として内3000万円を検収時に原告が支払い(乙 7,甲16-23),残余を製品価格に上乗せして回収すること,納期を平成13年4月とし,数量を初回は4万台とすることを合意していた。
 しかるに,原告は,被告に開発作業をさせて,製品仕様書(甲31)その他の開発成果(甲40~42,44)を取得しながら,前記の製品量産委託義務を一方的に破棄し,金型製作の手配を一方的に中断し(甲8柱書,甲2 2),被告の成果物を流用して,中国の業者等に対する見積り依頼に及んだ (甲22)。
 そのため,被告は,一旦合意をした「8600円/台」という製品価格を 「8390円」に値引きし,「6501万円」の金型製作総代金をも「6000万円」にして,平成13年1月26日付け甲8書簡によって原告の義務履行を促した。甲8書簡の「最終的な条件」第9項に示された「2月14日 までに御決裁を頂きたく御願いを申し上げます。なお,本開発委託契約を御解約される場合は不本意ではありますが契約書第4条に基づき前記5の開発設計費を請求させて頂きます」との記載は,御決裁すなわち開発委託義務又 は金型発注に伴う上記代金債務の履行をしないときは,甲5の4条の原告都合解除とみなして民法545条3項により損害賠償を請求するとの表示意思の通知,すなわち期限付解除の意思表示であると解することに不合理な点はない
(2) 共同出願要件違反(2)(解除の効果に係る判断の誤り)に対し
ア 本件においては,甲8書簡に基づく法定解除の遡及効が認められる。ま た,平成13年3月26日の合意は何らの留保を付さない白紙解約である から,その合意解約によっても本件開発委託契約の遡及的消滅が認められ る。したがって,これと同旨の審決に誤りはない。
イ 原告は,本件効力存続条項(甲5の8条2項)により本件共同出願条項は本件特許の存続期間満了まで効力を有する旨主張する。しかし,本件効力存続条項は,「前項の定めに関わらず」6条(工業所有権)に関する定めは当該工業所有権の存続期間中有効であるとするものであって,8条1 項(本契約の有効期間は,本契約締結の日から第2条のいう委託業務の終了日までとする。)の有効期間の満了前に解除がされた本件のような事実関係の下で適用される約定ではない。本件開発委託契約においては,「業務委託」(法律行為)ではなく,「委託業務」(事実行為)の終了日が契約終了時期とされているから(8条1項),事実行為である委託業務の終了には,法律行為(契約)の終了原因である法定解除や合意解除を含まない。そもそも「開発委託」契約の終期を「委託が終了したとき」と解するのは,同義反復であって,論理的に意味をなさない。したがって,本件効力存続条項により本件特許権が原告と被告の共有になるということはない。
 仮に解除の効果が将来効であったとしても,本件特許の出願はその後に行われたものであるから,本件共同出願条項(甲5の6条1項(2))は本件特許の出願の共同出願要件違反を帰結せず,原告の無効主張は理由がない。
ウ 原告は,本件効力存続条項の遡及的消滅によって,原告が被告の開発費用を含め開発費用を全額負担するのに対して,被告は開発費用をかけずに特許を受ける権利を手に入れ,被告のみが独占的に開発成果を実施できるから不合理であると主張する。しかし,原告は,自ら開発委託義務の債務不履行をして,被告に対しデザイン費等の損害を被らせたのであるから, 民法545条3項により賠償に応ずるのは当然である。特許を受ける権利が現に創作を行なった被告従業員(N)に原始的に帰属するのは当然である。
(3) 共同出願要件違反(3)(原告の従業員が共同発明者であることを看過した 誤り)について
 本件発明1ないし17は,被告従業員Nの単独発明であり,審決の認定に誤りはない。
 Iは,平成12年当時,原告の従業員であるとともに被告の技術顧問でもあり,その給与は原被告が折半していたから,Iが顧問として本開発品の開発会議(甲37,43等)に出席していたとしても,Iが原告の職務発明者であるとはいえない。
 

■裁判所の判断(抜粋)
1 共同出願要件違反(1)(債務不履行解除の事実認定の誤り)について
 審決は,被告の原告に対する甲8書簡中の記載,すなわち,「ここに開発委 託契約の案件につきまして,弊社の最終的な条件および御見積もり等を下記の通り御提示申し上げますので,何卒,御高配を頂き御承認を賜りますよう切に御願い申し上げます。」との記載(甲8の冒頭本文)及び「9,開発委託契約の解約について 上記8の納期を前提としますと2月14日までに御決裁を頂きたく御願いを申し上げます。なお,本開発委託契約を御解約される場合は不本意ではありますが契約書第4条に基づき,前記5の開発設計費を請求させて頂きます。」との記載(甲8の9項)によれば,甲8書簡は,「平成13年2 月14日を期限とする開発委託契約の法定解除の意思表示に実質的に相当乃至示唆することは明らかである。」と認定した(審決書37頁)。
 しかし,審決において債務不履行解除の意思表示の認定根拠とされている甲 8書簡中の「本開発委託契約を御解約される場合は」という記載には,敬語が使用されているから,その「御解約」の主体は,被告作成の甲8書簡の相手方である原告であると理解される。また,甲8書簡において,被告が原告に対して主張した開発設計費支払請求の法的根拠は,債務不履行解除に係る損害賠償請求権(民法545条3項,415条)ではなく,本件開発委託契約書(甲 5)の4条である。同条項の記載,すなわち「甲(判決注 原告)のやむを得ない事由により,開発を中止又は中断しなければならなくなったとき,甲はその旨を乙(判決注 被告)に書面にて通知することにより,本契約を解除することができる。この場合,甲乙協議の上,乙がそれまで負担した費用を甲は乙 に支払うものとする。」という約定記載によれば,その解除権行使の主体は,原告のみに限定されている。したがって,甲8書簡で言及された「御解約」の主体は,被告ではなく,原告であることは明らかである。その他,甲8書簡には,債務不履行を理由とする解除の意思表示を認めるに足りる記載が見当たらない。
 そうすると,甲8書簡をもって被告が期限付きの債務不履行解除の意思表示をし,又は黙示的にその意思表示をしたものであると認めることはできない。 したがって,被告が債務不履行を理由とする解除の意思表示をしたとした審決の認定は誤りであり,この点に関する原告の主張は,理由がある。
2 共同出願要件違反(2)(解除の効果に係る判断の誤り)について
 審決は,本件共同出願条項について,民法545条1項の債務不履行解除により,又は存続特約のない平成13年3月26日付け合意解約により遡及的に消滅し,本件特許の出願日である平成13年6月6日以前にその効力を失ったから,本件特許には,本件共同出願条項に基づく原被告の共有を前提とする特 許法38条(共同出願)違反の瑕疵はなく,同法123条1項2号の無効理由は存在しない旨判断した(審決書37頁以下)。
 しかし,上記審決の判断は,次のとおり誤りである。 (1) 事実認定証拠(甲17,51)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 平成5年9月3日,原告と被告は,原告が被告に対して浄水器の製造及び商品開発を委託することを内容とする本件取引基本契約を締結した。その本件取引基本契約書第15条においては,新たに発生する特許,実用新案,意匠等については原被告の共同出願とする旨が合意され(甲90), それ以降,原告と被告との間で新開発された商品については約7年間にわたって共同出願がされていた(甲17の30頁,弁論の全趣旨)。
イ その後,原告は,被告との間で,原告が新たに販売企画する新型浄水器 「NEWツイン(仮称)」(中空糸膜活性炭を主たる濾材とするツイン カートリッジを基本として,カートリッジの簡便着脱機構,カートリッジ の交換時期を表示するインジケーター,熱湯ストッパー機構付きの切換コ ックなどを装備する高性能な据置型浄水器)の開発業務を被告に委託する 旨の平成12年4月1日付け本件開発委託契約を締結した(甲5)。
ウ 本件開発委託契約書(甲5)には,次の記載がある。
「第6条(工業所有権)
1,本開発品に関しての工業所有権を取得する権利は次の通りとする。
(1)商標および意匠登録は甲が取得し,甲が単独で所有する。
(2)特許および実用新案は甲(判決注 原告)と乙(判決注 被告) の共同出願とし,甲と乙の共有とする。
2,前項1,(2)の共同出願の手続きは甲が行い,発生する費用は甲乙 それぞれが折半することとする。
(省略)
第8条(有効期間)
1,本契約の有効期間は,本契約締結の日から第2条の委託業務の終了日までとする。
2,前項の定めに関わらず,第5条(秘密保持)に関する定めは,この契約終了後5ヵ年間有効とし,第6条(工業所有権)に関する定めは,当該工業所有権の存続期間中有効とする。
エ 本件開発委託契約に基づき,原告と被告の各開発担当者は,新型浄水器 に関する開発会議を重ね,新商品の設計作業が完成し,その後,金型製作代金の協議を実施した。被告は,平成12年10月23日付けで見積金額 を6501万円(消費税別)とし,うち3000万円を金型製作代金として速やかに原告が支払い,残額3501万円は製品価格決定後の打合せにより製品価格に上乗せする方法で,実質的には原告が負担する旨の見積書を提出した(乙7)。これに対し,原告は,平成12年10月23日,被告の要望に沿って同日付けで注文金額を3000万円(税別)とする注文書のみを提出したが(甲21),残額については別途被告と協議することを予定していた(甲51の18頁,19頁)。
オ しかし,原告と被告との間で金型製作代金の残額に関して合意を得ることができなかった。そして,原告は被告に対して,金型製作を中国で行うことを提案したが,被告は,品質を保証することができないなどとしてこれを拒否し,金型製作代金をめぐる協議は進展しなかった(甲16-2 5,甲17の9頁以下,18頁以下,甲51)。
カ 被告は,原告に対し,平成13年1月26日付けの甲8書簡を送付し, 被告が提案した金額により,本件開発委託契約を履行することを求めた。 しかし,原告は,被告の提案を拒否し,原被告代表者は,平成13年3月 26日に協議を行い,本件開発委託契約を合意解除するに至った(同日の 合意解除の事実は,当事者間に争いがない。)。なお,原告は,被告に対し,新製品の切換コックのみの供給を依頼し,同年5月7日付けで新製品の切換コックの供給契約については成立している(甲17の23頁以下,甲51の6頁以下)。
キ 原告は,100パーセント子会社であるニチデンを通じて中国の会社に金型製作を依頼し,平成14年1月から新型浄水器の販売を開始した(甲 51の10頁以下)。また,原告は,平成18年7月4日,被告を被供託者として本件発明の開発費用1155万8663円及びその遅延損害金の合計1316万9185円を弁済供託し,被告はこれを同月27日に受領 した(甲14,15)。
(2) 判断
ア 本件開発委託契約の記載によれば,同契約では,1. 本件発明について特許を受ける権利が原告と被告の共有であることが定められ〔本件共同出願 条項(6条1項(2))〕,また,2. 本契約の有効期間は,本契約締結の日 から第2条の委託業務の終了日までとすると定められ(8条1項),さらに,3. 前項の定めに関わらず,・・・第6条(工業所有権)に関する定めは,当該工業所有権の存続期間中有効とする〔本件効力存続条項〕(8条 2項)と定められている。そうすると,本件共同出願条項(8条2項にい う「第6条(工業所有権)に関する定め」に当たる。)は,本件開発委託契約の合意解除を原因とする「委託業務の終了」(8条1項)にもかかわらず,本件効力存続条項(8条2項)により,委託業務終了後の平成13 年6月6日の本件特許出願時においても,「当該工業所有権の存続期間中」(8条2項)として,その効力を有するものと解すべきは,疑いの余地はない
 したがって,上記認定した事実経緯の下における本件では,平成12年中に,新型浄水器についての設計開発作業は完了し,特許出願することができる段階に至っていたのであるから,合意解除がされた平成13年3月 26日には,本件効力存続条項によって,合意解除の後においても,引き続き,原告及び被告は相互に,特許を受ける権利の共有,共同出願義務を負担することになる。
イ この点について,被告は,本件開発委託契約書8条1項の「委託業務」は,事実行為であって,法律行為(契約)の終了原因である法定解除や合意解除を含まないから,法定解除等により契約目的を達成せずに途中で契約関係が終了した場合には8条1項が適用されず,その適用を前提とする 8条2項の本件効力存続条項も適用されない旨主張する。
 しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,18 条1項の「第2条の委託業務の終了」には,契約目的を達成した場合のみならず,委託業務(事実行為)が合意解除(法律行為)を原因として途中で終了する場合も含むと解するのが文言上自然であり,前記のとおり,合意解除の場合にも8条1項が適用され,8条2項の本件効力存続条項により本件共同出願条項がその効力を有すると解するのが,当事者の合理的な意思に合致するというべきであること,2. 本件開発委託契約では,最終的には,原告が被告の開発費用を負担することとし,被告が技術等を提供することと定められ(甲5の3条2項,3項参照),開発資金等を提供した 原告と,技術等を提供した被告との間において,特許等について共有とするとした趣旨は,互いに相手方の同意を得ない限り独占的な実施ができないこととして,共同で開発した利益の帰属の独占を相互に牽制することにある点に照らすならば,合意解除がされた場合においても,両者の利益調整のために設けられた規定を別の趣旨に解釈する合理性はないこと,3. 本件開発委託契約書5条(秘密保持)の約定は,同契約が合意解除がされた 場合にも,不正競争防止法の関連規定の適用を待つまでもなく,その効力を特約により存続させて互いの営業秘密を保護しようとするのが契約当事者の合理的意思に合致すると考えられること等,諸般の事情を総合考慮するならば,本件開発委託契約書8条2項において上記秘密保持規定と同様に記載された「6条(工業所有権)に関する定め」について,合意解除の場合においても,その効力を特約により存続させるのが契約当事者間の合理的意思に合致するといえる。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ そして,被告は,特許を受ける権利について,原告と共有であるにもかかわらず,平成13年6月6日に単独で本件特許の出願をし,その登録を 受けたものであるから,本件特許の登録は,特許法38条に違反するもの
として,123条1項2号の無効理由を有することになる。 以上のとおり,審決の認定判断には誤りがあり,原告の取消事由(共同出願違反(1)及び(2))に係る主張は理由がある。
3 結論
 以上によれば,原告主張の取消事由(共同出願要件違反(1)及び(2))はいずれも理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決には違法がある。よって,主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 飯村敏明
 

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「高強度部品の製造方法と高強度部品」事件

「高強度部品の製造方法と高強度部品」事件

平成24年2月6日判決言渡
平成23年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年1月23日
不服2009-14453号事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/973/081973_hanrei.pdf

■概要
- 従属項の特徴事項のみに着目した引用発明の認定を否定した事例。

■ポイント
- 特許庁の主張(要約):従属項の特徴事項に着目して引用発明を認定したことについて、以下のように主張。
「引用発明は、刊行物に具体的に開示された実施態様に限定して認定しなければならないというものではなく、ある技術課題に直面した当業者が、刊行物に接したときに、まとまりのある技術思想として、そこにどのような発明が記載されていると認識するかという観点から認定すれば足りる。すなわち、特許出願に係る発明について進歩性の特許要件を判断するに当たり、引用発明は、特許出願に係る発明との対比に必要な範囲で、その特徴的な要素を抽出して把握することが出来る。」

- 裁判所の判断(要約):引用発明の解決課題から請求項1の内容を中心的な技術思想として認定し、これを全部包含する従属項の発明においては従属先の技術事項と「密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべき」であるから、従属先の技術事項を切り離して、従属項の特徴事項のみを抜き出して引用発明の技術的思想を認定することは許されない。

特許庁の主張(抜粋)
1 取消事由1に対し
(1) 引用発明は,「加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れ」して高強度にする(段落【0002】)という技術を前提としてこれに改良を加えたものであるから,引用発明の方法によって得られる最終成形品(本願発明の「部品」に相当)においても高強度は維持されている。刊行物1には,「…鋼板Wは成形型5に挟まれることで成形型5に熱が奪われて急冷され焼入れされることとなり,成形品1の母材強度を大幅に向上させることができる。…」(段落【0020】)との記載がみられ,かつ,引用発明は,車体等の高強度化を前提として改良されたものである以上(段落【0002】),プレス成形品が高強度でないとするのはむしろ不合理である。
(2) 引用発明は,刊行物に具体的に開示された実施態様に限定して認定しなければならないというものではなく,ある技術課題に直面した当業者が,刊行物に接したときに,まとまりのある技術的思想として,そこにどのような発明が記載されていると認識するかという観点から認定すれば足りる。すなわち,特許出願に係る発明について進歩性の特許要件を判断するに当たり,引用発明は,特許出願に係る発明との対比に必要な範囲で,その特徴的な要素を抽出して把握することができる。
 審決は,引用発明を認定するにあたり,特許請求の範囲の【請求項1】に記載されている「加熱された鋼板を成形型によりプレス成形と同時に冷却して焼入れされた成形品を得るプレス部品の焼入れ方法」について,本願発明との対比に必要な範囲で,特徴的な要素として,Cの質量%(段落【0017】),鋼板加熱温度(段落【0020】),プレス成形開始温度(段落【0020】),金型中での焼入れ(段落【0020】),剪断加工(【図17】)を抽出して把握したものである。したがって,審決の引用発明の認定に誤りはない。

■裁判所の判断(抜粋)
3 取消事由1,2,4(引用発明の認定の当否,一致点の認定の当否,相違点の看過の有無,看過された相違点が想到容易といえるか)について
 取消事由2,4は,取消事由1を前提とするものであって,これらの取消事由は相互に関連することから,まとめて検討することとする。
(1) 上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れし,その後に加工するという従来技術においては,焼入れにより硬度が上昇してその後の加工が困難になるなどといった問題点があったことから,これを解消するために,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させる,すなわち,加工が必要な部位の焼入れ硬度を低下させ,その部位の加工を容易にすること(【請求項1】,第1実施形態に係る発明)を中心的な技術的思想とするものである。そして,プレス成形に引き続き成形品が冷却され硬化する前に成形型内で加工を行うという構成(【請求項9】,第4実施形態に係る発明)についても,【請求項9】が【請求項1】を全部引用していることに加え,「第9の発明では,第1の発明の効果に加えて…」(段落【0012】),「本実施の形態(判決注:第4実施形態)においては,第1実施形態における効果…に加えて,下記に記載した効果を奏することができる。」(段落【0076】)などの記載があることに照らすと,成形型内で加工を行うに当たっても,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工することが前提となっているものと認められる。このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。
 しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。
 したがって,上記の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。
(3) なお,原告は,取消事由1(1)として,審決が引用発明について「高強度」プレス成形品であると認定したことは誤りであると主張する。
 しかしながら,本願発明にいう「高強度」の部品は,焼入れにより強度を向上させた部品であると認められるところ,引用発明も,焼入れにより強度を向上させる従来技術を前提として,加工を行う部位についてのみ焼入れ硬度を低下させるのであるから,全体としての成形品は「高強度」であると認められる。

第6 結論
 以上のとおりで,取消事由3について判断するまでもなく,刊行物1を主たる引用例として本願発明の容易推考性を肯定した審決は誤りであって,取り消されるべきものである。よって,主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 塩月秀平
 

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一陸技の合格通知が届いたので免許申請の手続について調べてみた件

 

■ 手続全体の流れ

 ダウンロードから免許証発行までの流れ

 

■ 申請書のダウンロード

 □ 陸上無線技術士特殊無線技士(第一級海上特殊無線技士は除く)用
   免許申請書         申請にあたっての注意事項(記入例)

 

■ 申請に必要な書類(国家試験合格者用)

 □ 無線従事者免許申請書

 □ 氏名及び生年月日を証する書類

 □ 手数料(1,750円分の収入印紙)

 □ 写真(縦30mm×横24mm)

 □ 返信先(住所、氏名等)を記載し、 切手をちょう付した返信用封筒

  (免許証の郵送を希望する場合のみ)

 ※「簡易書留」等のご利用をお勧めします。

 ※ 返信用封筒が無い場合、「総合通信局」でのお渡しとなります。

 

■ 氏名及び生年月日を証する書類の例

 □ 住民票の写し※

 □ 戸籍抄本

 □ 印鑑登録証明書

 □ 住民票記載事項証明書※

 □ 公の機関が発行した資格証明書 (いずれもコピー不可)

 ※ 住民票の写し、住民票記載事項証明書を提出する際は、 「個人番号」が印字されていないものをご準備ください。

 ※ 住民票コード、無線従事者免許証、電気通信主任技術者 資格者証工事担任者資格者証の番号のいずれか1つを申請書の所定欄に記載した場合は、書類の提出を省略す ることができます。 ただし、番号を記載していただいても、氏名、生年月日が 確認できない場合には、書類の提出をお願いする場合も あります。

 

■「総務省 電波利用ホームページ」へのリンク(情報源)

 手続全体の概要はこちら

 申請書の提出先はこちら。

 

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進歩性の一考察(「マルチデバイスに対応したシステムにおいて用いられる装置,その装置において実行される方法およびプログラム」事件)

 

「マルチデバイスに対応したシステムにおいて用いられる装置,その装置において実行される方法およびプログラム」事件

平成27年12月17日判決言渡
同日原本領収 裁判所書記官
平成27年(行ケ)第10018号
審決取消請求事件
口頭弁論終結平成27年11月19日
不服2014-10032号

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/557/085557_hanrei.pdf

 

■ 事案の概要
- 「予め格納」と「動的に調整」との相違点につき、容易想到性の判断が争われた。
- 本願発明は、スマホやPCなど、複数の異なる端末(マルチデバイス)に応じて適切な表示形式への変換を実現するために、「予め格納」された複数の定義ファイル(CSSファイル)から、端末の画面サイズに応じて何れか一つの定義ファイルを選択する方式。
- 引用発明は、端末の画面サイズに応じて「動的に調整」する方式。

 

■ 上記相違点に対する審決の判断
- 周知例(端末装置の種類(通常、画面サイズも異なる)に対応する複数の定義ファイル(スタイルシートCSSファイル)を予め用意しておき、そのうちの1つを選択する技術)に基づき、容易想到である。

 

■ 出願人(原告)の主張(要約)
- 引用発明の目的は、「端末装置の特性や能力等に応じて別々のコンテンツ及び選択肢を用意することなく、コンテンツのメンテナンスに要する負担やコスト等を軽減しつつ、端末装置に応じた最適なコンテンツを提示する」というもの。
※ カギ括弧内は、引用文献からの引用部分。
- 周知技術(複数のスタイルシートを予め用意)を採用すれば、引用発明の前記目的を達成することが出来なくなる。

 

特許庁(被告)の主張(要約)
(引用文献における目的の記載について、)
- 引用発明があえて前記構成を採用したことは、・・・前記構成及び周知技術Aの各長短を総合して得られるメリットを比較考慮し、前記構成のメリットの方が大きい場合があると考えたことを示すにすぎない。
- 引用発明の前記構成に固有の問題の程度と、・・・周知技術Aに固有の問題の程度は、・・・発明を実施しようとする場面によって変化する。引用発明の前記構成に固有の問題の程度が、周知技術Aに固有の問題の程度よりも大きくなる場合があり得ることは、当業者に明らかである。
- 以上によれば、・・・これに接した当業者は、・・・あらゆる場合に周知技術Aの採用が否定されるとまでは考えないから、引用例による前記示唆も、引用発明の前記構成に代えて周知技術Aを採用することを阻害するものではない。

 

■ 裁判所の判断(要約)
- 引用発明は、従来技術において『複数の選択肢をあらかじめ用意しておく必要があることから、端末装置の種類や機種の増加に伴って、サーバ装置側の操作負荷が膨大なものとなり、コストも増大するという問題がある』という認識の下、「端末装置の特性や能力等に応じて別々のコンテンツ及び選択肢を用意することなく、コンテンツのメンテナンスに要する負担やコスト等を軽減しつつ、端末装置に応じた最適なコンテンツを提示することができる情報提示装置の提供を課題とした」ものである。
※ カギ括弧以外は、当方による補足部分。
- 引用発明に周知技術Aを適用することは、「端末装置の種類や機種の増加に伴って、サーバ装置側の製作負荷が膨大なものとなり、コストも増大するという問題を生じさせ」、「この問題は、引用発明がその解決を課題とし、・・・課題解決手段の採用によって解決しようとした問題にほかならない」。
- 阻害要因があるものというべき。

 

■ 私見
- 本事案は、引用文献の解決課題欄の記載(課題認識に関する記載)から阻害要因が認定された理解しやすい例といえる。


- 本事案で着目すべき点として、特許庁の主張内容があげられる。


- 引用文献の『複数の選択肢をあらかじめ用意しておく必要があることから、端末装置の種類や機種の増加に伴って、サーバ装置側の操作負荷が膨大なものとなり、コストも増大するという問題がある』という記載に対し、特許庁は、「メリットを比較考慮し、前記構成のメリットの方が大きい場合があると考えたことを示すにすぎない」、「これに接した当業者は、・・・あらゆる場合に周知技術Aの採用が否定されるとまでは考えない」と主張している。


- 本事件の提訴日は平成27年(2015年)1月28日であることを考えると、平成27年9月改訂の審査基準に向けて、産業構造審議会の審査基準専門委員会WGで検討されていた「進歩性判断における後知恵防止」の議論は、特許庁でまったく無視されていたと言えそうだ。


https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/new_shinsakijyun03_gijiyousi.htm


- 本事案の出願について審査時の意見書を拝見すると、以下のように、回路用接続部材事件などの判決の事件番号を引用している箇所が見受けられる。


 ”主引用例として認定された引用文献に記載された発明から出発して、本願の請求項に係る発明と引用文献に記載された発明との相違点に係る構成に想到することが容易であるか否かを検討することによって進歩性の有無を判断するという手法は、知的財産高等裁判所の多くの判例によって指示されています。”
 ”例えば、平成20年(行ケ)第10096号判決および平成20年(行ケ)第10261号判決をご参照下さい。これらの判決は、進歩性に基づいて拒絶する場合、解決されるべき課題が考慮されなければならないこと、引用文献を組み合わせるためには示唆などが必要とされることを判示しています。”
 ”さらに、これらの判決は、引用文献の組み合わせを考慮してどのように進歩性の拒絶理由が形成されたかについての合理的な説明を審査官が提供しなければならないことを判示しています。”
 ”さらに、比較的最近の平成24年(行ケ)10278号判決もまた、上述した進歩性の判断手法を採用することを支持しています。”

 

- 上述の意見書から学べることとして、事件番号を列挙し、「これらの判決は、進歩性に基づいて拒絶する場合、解決されるべき課題が考慮されなければならないこと、引用文献を組み合わせるためには示唆などが必要とされることを判示しています」という抽象的な引用の仕方では、本事案が審決取消訴訟にまでこじれてしまったことを考えると、あまり効果が期待できない、と言えそうである。

 

- 個々の判決が事案に応じた個別具体的な判断に基づくものであるならば、その具体的な事情を引用して、本件との類似性を簡潔に論証すべきなのだろう。

 

- すなわち、本事案の審査段階での意見書では、何点かの裁判例を引用して、規範の定立まではしているが、その規範への本件の具体的な事情を当てはめて検証するという点が足りていなかった、と言える。

 

以上

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「マルチメディア方法,マルチメディアシステム,及びアイテム」事件

平成24年7月18日判決言渡
平成23年(行ケ)第10380号
審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年7月4日

 

【概要】

原告が「ワイヤレス接続ではロボット主要部に電源を供給することができないから,引用発明においてワイヤレス接続を採用することは不可能であり,阻害事由がある」旨を主張したことに対し、裁判所は、引用発明の目的と直接関係がない事項であるとし、阻害要因を否定した事案。

【本事案のお言葉】

"ゲーム機本体からロボット主要部に電源を供給することは,引用例に記載された発明が達成しようとした目的と直接の関係はない。そして,玩具体への電源供給を電池などにより行うことは周知技術にすぎないものであり,電源供給をゲーム機から行わなくとも玩具体を動作可能とすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。よって,引用発明においてワイヤレス接続を適用することへの阻害事由があるとの原告の上記主張は採用することができない"

(by裁判長裁判官 塩月秀平 さま)

 

■裁判所の判断(抜粋):

3 情報アイテムとホストシステムとの情報交換のための接続(審決における相違点1の判断)について
 引用例では,ゲーム機本体(本願発明のホストシステムに相当)と玩具体(本願発明の情報アイテムに相当)との情報交換につき,ケーブルによる電気的接続を採用する旨の記載はあるものの,ワイヤレス接続に関する記載はない。しかし,引用例に記載された発明が解決しようとする課題,課題を解決するための手段,及び特許請求の範囲からみて,ゲーム機本体が玩具体主要部の不揮発性メモリからデータを読み取る手段についての限定は認められず,引用例における電気的接続は一実施例にすぎないと認められる。そして,引用発明におけるゲーム機本体と玩具体との間の接続がケーブルによる電気的接続ではなくワイヤレス接続であっても,ゲーム機本体が玩具体(ロボット玩具)のデータ(特性データや過去の対戦データ,識別部のスイッチのセット状態など)を読み取り可能であれば,玩具体(ロボット玩具)を特定してロボット玩具に対応するキャラクターをモニター装置に表示することは可能であり,また,対戦データを玩具体の不揮発性メモリに記録することも可能であって,ゲーム機本体とモニター装置に表示されるロボットと対応する実際の玩具体の情報交換を可能にしてゲームの興趣性を高めようとした引用発明の目的を達成することができる。そうすると,ワイヤレスによる通信・情報交換が周知技術であることからすれば,引用発明におけるケーブルによる電気的接続をワイヤレス接続に置き換えることは,当業者にとって容易想到というべきである。

 原告は,ワイヤレス接続ではロボット主要部に電源を供給することができないから,引用発明においてワイヤレス接続を採用することは不可能であり,阻害事由がある旨主張するが,ゲーム機本体からロボット主要部に電源を供給することは,引用例に記載された発明が達成しようとした目的と直接の関係はない。そして,玩具体への電源供給を電池などにより行うことは周知技術にすぎないものであり,電源供給をゲーム機から行わなくとも玩具体を動作可能とすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。よって,引用発明においてワイヤレス接続を適用することへの阻害事由があるとの原告の上記主張は採用することができない。よって,審決の相違点1に判断に誤りはない。

4 情報アイテムとホストシステムとの近接条件(審決における相違点2の判断)について  本願明細書(甲6,9)には,本願発明におけるホストシステムと分散アイテムとの「近接条件」に関して,「・・・ホスト装置が,分散アイテムが適切な近傍内にあるかどうかを検出する。これは約1メーターの距離とすることができ,あるいは同じ部屋内の存在であってもよい」(甲9の6頁10行~13行)と記載されていることなどからすれば,ユーザが,本願発明に係るシステムを実際に利用している現場において,ホストシステムと情報アイテムとの距離が近接していると物理的に認識可能な程度の範囲内であること(具体的には,ユーザのいる部屋内か,ユーザの目視可能な程度の範囲内)を意味するものと認められる。

 また,引用発明は,前記のとおり,3次元的な玩具体とゲーム機とを融合させて,玩具体と対応するキャラクターをモニター装置に表示するようにしたゲーム装置に関するものであり,モニター装置に表示されるロボットと対応する実際の玩具体を「近くに置いて」ゲームを操作できるようにし,プレーヤーの感情移入をしやすくしてゲームの興趣性を高めることを目的とするものであるから,ゲーム機本体と玩具体とをケーブル接続により接続してゲームを操作するのは,プレーヤーが,モニター装置と玩具体との距離が近接していると認識可能な程度の範囲内にモニター装置と玩具体が存在する場合(具体的には,ユーザのいる部屋内か,ユーザが目視可能な程度の範囲内)であるものと認められる。

 そうすると,本願発明における「近接条件」と,引用発明において,モニター装置と玩具体とを「近くに置いて」ゲームを操作することとは,実質的な距離範囲として異なるものではないと解せられる。

 そして,ワイヤレス接続による通信において通信可能な範囲を超えると通信ができなくなることは技術的に自明であるところ,引用発明においてゲーム機本体と玩具体との「接続」に周知技術である「ワイヤレス接続」を採用した場合に,「ワイヤレス接続により通信可能な範囲」をモニター装置と玩具体とを「近くに置いて」ゲームを操作する範囲とすることは,当業者にとって自明のことである。その結果,引用発明においては,プレーヤがモニター装置と玩具体とを「近くに置いて」ゲームを操作する範囲にある場合にのみ,「勝者となった玩具体の不揮発性メモリにはその対戦データが記録され」ることなるところ,これは本願発明の「近接条件を分散アイテムが満たす限り,情報アイテムが,前記ホストシステムが生成した結果に追随させることを許容する」ことに対応するものである。

 よって,引用発明において,「近接条件を分散アイテムが満たす限り」において,情報アイテムがホストシステムが生成した結果に追随させることを許容する構成を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである。審決の相違点2に関する判断に誤りはない。

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「光源装置およびこの光源装置を用いた照明装置」事件

平成24年7月11日判決言渡

平成23年(行ケ)第10271号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年5月9日

 

【概要】

  共同開発事業を実施するにあたり締結された秘密保持契約につき、
完成品の納品後も、秘密保持義務を負うのか否かが争われた事案。

【本事案のお言葉】

 原告は,完成品は本件秘密保持契約の適用外であると主張するが,特許出願までの間は契約対象の技術情報についての秘密保持義務があることは当然であって,原告の主張は理由がない。

(by裁判長裁判官 塩月秀平 さま)

 

■裁判所の判断(抜粋):

 甲5及び弁論の全趣旨によれば,原告は電気機械器具の製造販売及び工事施工等を業とする会社であり,被告は,光学機器,照明用光学製品等の製造販売等を業とする会社であるところ,原告と被告は,平成19年12月13日,被告の開発したLEDフラットパネル製品に関する共同開発事業を実施することとし,その際,被告が原告に提供した製品に係る技術的情報及びノウハウなどの秘密情報について,下記の約定を含む本件秘密保持契約(甲5)を締結したことが認められる。


(本契約の目的)
第1条 甲(判決注:被告)および乙(判決注:原告)は,甲の開発したLEDフラットパネル製品(以下「本製品」という。)についての甲と乙とによる共同開発事業(以下「本件事業」という。)の是非を検討する目的において,自己が保有する情報を,相手方(以下「被開示者」という。)に対して開示または提供し,被開示者はこれを秘密情報として開示または提供を受ける。

(適用範囲)
第2条 本契約に定める規定は,甲乙間の本件事業に関するすべての交渉において提供または開示される情報および資料に適用される。ただし,本契約締結後,甲乙間において書面により本契約に定める規定と異なる合意をする場合は,当該合意が本契約に優先する。

(秘密情報の定義)
第3条 本契約において秘密情報とは,情報を開示する者(以下「開示者」という。)が被開示者に対し,口頭,書面,電子メールまたは電子記憶媒体等その方法もしくは手段の如何を問わず,またその形態の有形無形をも問わず,開示者が被開示者に対して書面または電磁的記録をもって秘密である旨を明示したうえで開示または提供する営業情報,ノウハウ,技術情報および経営情報等一切の情報ならびに資料をいう。なお,被開示者において秘密情報を複製,翻案等した場合は,複製・翻案等した資料についても秘密情報と同様とする。
2 開示者が被開示者に対し,開示または提供後10日以内に,書面または電磁的記録をもって,対象を特定し,秘密である旨を明示した情報および資料についても,秘密情報に含まれるものとする。
3 前2項の規定にかかわらず,甲が乙に提供した本製品にかかる技術的情報およびノウハウはすべて秘密情報に含まれるものとする。

(秘密情報についての秘密保持義務)
第5条 被開示者は,第6条第1項に規定される利用を除き,秘密情報について開示者のために厳に秘密を保持しなければならず,開示者の書面による事前の同意なくして,その全部または一部を第三者に開示または提供し,もしくは漏洩してはならない。


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 上記約定によれば,本件秘密保持契約は,原被告間の「本件事業」に関するすべての交渉において提供または開示される情報および資料に適用されるものであり(第2条),本件秘密保持契約にいう秘密情報とは,「情報を開示する者が被開示者に対し,口頭,書面,電子メールまたは電子記憶媒体等その方法もしくは手段の如何を問わず,またその形態の有形無形をも問わず,開示者が被開示者に対して書面または電磁的記録をもって秘密である旨を明示したうえで開示または提供する営業情報,ノウハウ,技術情報および経営情報等一切の情報ならびに資料」をいい(第3条),「本件事業」とは被告の開発したLEDフラットパネル製品についての被告と原告とによる共同開発事業をいうのであるから(第1条),被告と原告とによる共同開発にかかるLEDフラットパネル製品である「SE型用特殊リフレクターフラッター」の原告と被告との共同開発は,本件秘密保持契約の対象となる事業に含まれ,原告は被告に対し,「SE型用特殊リフレクターフラッター」に関するすべての交渉において提供または開示される技術情報について本件秘密保持契約に基づく秘密保持義務を負うことが明らかである。  原告は,本件秘密保持契約を締結するにあたり当事者双方の念頭にあったのは「フラッタ技術」であり,「リフレクタ技術」は念頭になく,対象に含まれていないと主張する。しかし,本件秘密保持契約にいう秘密情報は,上記のとおり「一切の情報ならびに資料」(第3条)とされており,「フラッタ技術」に限られるとする根拠はない。
 ちなみに,乙1によれば,原告所属のAは,平成20年1月24日,被告に対し,今回の開発に係る原告の製品技術内容に関しても,本件秘密保持契約の趣旨と同様の扱いを求める電子メールを送信したことが認められ,原告としても引用発明製品が本件秘密保持契約の適用の対象となることを前提としていたことが認められる。原告は,完成品は本件秘密保持契約の適用外であると主張するが,特許出願までの間は契約対象の技術情報についての秘密保持義務があることは当然であって,原告の主張は理由がない。
 したがって,引用発明製品が原被告間で秘密を保つべき対象であったというべきであり,これと同旨の審決の認定判断は正当である。
 以上によれば,引用発明が本件特許の優先日前に公然知られた発明であるということはできないとの審決の判断に誤りはない。
 なお,原告は,320個もの引用発明製品が本件特許の優先日前である平成20年9月30日に原告へ納品されたことをもって引用発明製品が公知となったことを主張するが,原告が当事者の一方である本件秘密保持契約の対象として引用発明製品が含まれる以上,原告の主張には理由がない。この納品製品は,被告の主張によると,JR東日本の駅等で設置試験が行われたようであるが,この設置が本件優先日より前に行われたものとは認められないし,このことから,JR東日本の関係者に外形からみた引用発明製品の構成が本件優先日より前に知られたことまでは認められない。

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「音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書」事件

平成20年8月26日判決言渡

平成20年(行ケ)第10001 号

審決取消請求事件

平成20年6月12日口頭弁論終結

 

【本事案のお言葉】

 ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,その構成中に,人の精神活動,意思決定又は行動態様を含んでいたり,人の精神活動等と密接な関連性があったりする場合において,そのことのみを理由として,特許法2条1項所定の「発明」であることを否定すべきではなく,特許請求の範囲の記載全体を考察し,かつ,明細書等の記載を参酌して,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されていると解される場合には,同項所定の「発明」に該当するというべきである。

(by裁判長裁判官 飯村敏明 さま)

 

■裁判所の判断(抜粋):

 特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定する。したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,自然法則を利用した手段が何ら含まれていない場合には,そのような技術的思想の創作は,特許法2条1項所定の「発明」には該当しない。

 ところで,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在であり,通常は,人の行動に対して,反復類型性を予見したり,期待することは不可能である。したがって,人の特定の精神活動(社会活動,文化活動,仕事,余暇の利用等あらゆる活動を含む。),意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには自然法則の利用とはいえないから,特許法2条1項所定の「発明」に該当しない。

 他方,どのような課題解決を目的とした技術的思想の創作であっても,人の精神活動,意思決定又は行動態様と無関係ではなく,また,人の精神活動等に有益・有用であったり,これを助けたり,これに置き換える手段を提供したりすることが通例であるといえるから,人の精神活動等が含まれているからといって,そのことのみを理由として,自然法則を利用した課題解決手法ではないとして,特許法2条1項所定の「発明」でないということはできない。

 以上のとおり,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,その構成中に,人の精神活動,意思決定又は行動態様を含んでいたり,人の精神活動等と密接な関連性があったりする場合において,そのことのみを理由として,特許法2条1項所定の「発明」であることを否定すべきではなく,特許請求の範囲の記載全体を考察し,かつ,明細書等の記載を参酌して,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されていると解される場合には,同項所定の「発明」に該当するというべきである。

 

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